アゲツコンシ(阿月渾子);Pistacia vera(ピスタチオ)

 阿月渾子アゲツコンシはウルシ科カイノキ属の落葉亜高木で、種子がピスタチオとしてよく知られています。属名のPistaciaはギリシア語のpistakeに由来し、この語は古代ペルシア語のpistaに由来します。


 温帯地方産の殻果果樹で、イラン、アフガニスタン、トルクメニスタンの三国が接する辺りの丘陵地から山地が原産地で、自生地はカザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタンと中央アジアから西アジアに広がっています。考古学者によると紀元前六千五百年ごろから食用にされていたとされています。


  中国へはイランから唐の時代に伝わり、最古の栽培は七三九年の「本草拾遺ほんぞうしゅうい」に記録されていますが、本格的に栽培されるようになったのは一九二〇年新疆ウイグルのカシュガルにウズベキスタンから導入され、一九七〇年以降導入研究が進み、二〇一二年以降優良新品種の導入などがされているそうです。英国へは一七七〇年に渡来し、アメリカへは一八五三年以降南フランスから導入してカルフォルニア州で栽培後、本格的に栽培されるようになり、カルフォルニア州 、アリゾナ州、テキサス州で大規模に栽培されています。


 「分類学の父」でもあるスウェーデンの植物学者カール・フォン・リンネが一七五三年に出版した『植物の種』にも収載されています。


 日本への渡来は江戸時代の文政年間に乾果かんか(ドライフルーツ)が長崎に入った時です。明治十七年ごろ皇室専属の園芸家福羽逸人ふくばはやとが、武庫離宮むこりきゅうで栽培したと記録があるそうです。昭和二年松崎直枝まつざきなおえがクリミアから種子をもらい小石川植物園で育てたと岩佐俊吉いわさしゅんきち著「図説熱帯の果樹」に記述があります。


木は高さ10mほどに成長し、葉は落葉性の奇数羽状複葉、10〜20㎝ほどになります。長径3㎝ほどの楕円形の殻果は、成熟すると、裂開果と呼ばれる一辺が裂けた独特の形状となり、熟すと落木します。この形状から、現代中国語では「開心果カイシングオ」(kāixīnguǒ)と称します。


 種子ピスタチオは阿月渾子あげつこんしと呼び、腎炎、肝炎、胃炎などに有効とされています。血中の総コレステロール、LDLコレステロールを低減し、抗酸化物質を増やす作用もあり、血圧降下作用、心血管疾患、脳血管疾患、老人性網膜症、アンチエイジングなどに医療、健康増進効果があるとして人気のある健康食品です。


 非乾燥重量の約25%が、オリーブオイルに多く含まれている一価不飽和脂肪酸のオレイン酸であり、抗酸化作用のあるルテインやゼアキサンチンなども含まれていて、遺伝子の酸化を防ぐことができた要因として、ピスタチオに含まれる抗酸化物質の影響が考えられます。


 その一方でピスタチオに含まれるカリウムという栄養素が、腎臓に持病がある場合にリスクになることがわかっています。腎臓疾患により、血液中のカリウムをうまく排出できないと、高カリウム血症になる可能性があるため、重症化すると、不整脈や心停止につながることから、カリウムを多く含むピスタチオを持病がある人が食べ過ぎると死亡の危険があるといわれています。ですから、持病のある人はもちろんのこと、そうでない人であっても、ピスタチオの食べ過ぎは禁物で、「1日に食べる量を守る」(1日あたり30粒以内が目安)「体調が悪いときには食べない」など、注意が必要です。


 秋が旬のピスタチオですが、お菓子として俳句でも詠まれています。


ピスタチオ殻割る音に年立てり 高澤良一.

ピスタチオの割れぬ一粒神の留守 ふけとしこ

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