第16話 スタートは初心者の館から 4
翌日。
あずきは初心者の館の前に立つと、思いっきり伸びをした。
朝日が眩しい。
昨夜は夜遅くまで授業が続いたのでちょっと眠いが、心がワクワクしている。
小学校の授業はつまらなかった。
算数だ、国語だ、理科だ、社会だと色々教わったが、それが将来何の役に立つか分からなかったからだ。
勉強しろ勉強しろとだけ言われても意欲なんか湧いてこない。
詰め込むだけの授業なんかちっとも面白くない。
でも昨夜の授業は面白かった。
身体の中を
自分の中の眠っていた何かが活性化するのを感じた。
充実していた。
「しっかり寝て、しっかり食べて、気力も充実しているわね? 昨夜教えたこと覚えているかしら? やってみて」
サマンサに言われて、あずきはお腹をさすった。
朝ごはんも食べてお腹もいっぱいだ。
寝るのは遅かったけど、ベッドの寝心地が良かったこともあって疲れもすっかり取れている。
――気合は十分。よし、いける!
あずきは祖母に貰った杖を懐から取り出すと、構え、宙に図形を描いた。
杖の
昨夜覚えた魔法陣だ。
描き終わった後も、そこに光が残り続ける。
――よし、成功!
一晩寝て忘れてないかちょっと不安だったが、しっかり覚えていた。
あずきは次に、光る魔法陣に向かって手を伸ばした。
「ディミティス(解放)!」
魔法陣からゆっくりと
三十センチほど
役目を終えた魔法陣がゆっくり霞んで消える。
「ブラヴォー! 収納の魔法陣、習得出来たようね。じゃ、次。箒に
あずきはサマンサの言葉に頷き、箒に跨った。
意識を体内に集中する。
「イグナイテッド(着火)!」
あずきの体内。丹田にある
昨日は火のイメージだった。
今度は風だ。集中する。
「ベントゥス(風よ)!」
あずきは魔法核に風のイメージを送った。
途端に身体の中を暴風が吹き荒れる。
風に翻弄されて、足元がふらつく。
――ダメダメ、強い強い! 必要なのは、もっと静かな風だってば。
あずきは魔法核から噴出する風の力を、イメージの水栓を使ってぎゅっと絞り、出力を抑えた。
途端に激しい暴風が優しい涼風に変わる。
身体の中に生まれた涼風を箒に送る。
箒はあずきを乗せたまま、ゆっくり上昇した。
箒に跨ったまま、あずきはヘリコプターのように、その場に漂う。
あずきは手に意識を集中した。
握った箒の柄から、箒の中を循環している自身の魔力を感じる。
今度はそれを
――急発進は事故のもと。一気に移しちゃダメ。少しずーつ、少しずーつ。
箒がゆっくりと前進を始める。
魔力の流れを細かく操作し、あずきは円を描きつつゆっくり庭を回った。
「よしよしよしよし、操作に問題は無いようね。はい、降りていいわよ」
あずきの足がゆっくりと地面に着く。
箒を下りる。
箒に乗っている間、教わった通り、お尻の下にも風のクッションを作ったからか、思ったほどお尻は痛くない。
自転車のサドルに
緊張が解けて、軽い痺れと共に、足先の感覚が戻って来る。
ジェットコースターから降りた直後のようなふらつきがあったが、段々と薄れていく。
「じゃ、次。前方に杖を構えて魔法弾の速射、五連!」
「はい! アグニ(火よ)!」
あずきは風に支配されていた体内の魔力を一瞬で火に入れ替えた。
まるでリモコンで操られるかのように、大きな火のエネルギーが身体の中をビュンビュン音を立てて飛び回る。
あずきは体内を巡る火を五つに分割し、構えた杖に一個ずつ丁寧にチャージした。
杖の先端が光を帯びる。
「行け、火炎弾!」
杖からきっちり五発分の火の玉が飛び出し、猛スピードで空を飛ぶと、やがて遠く離れた位置で次々と爆発した。
その様子を見ていたサマンサは、合格と判断したか、うんうんと満足そうに頷いた。
「よしよし、上出来よ。これで最低限、覚えなくっちゃいけないことは覚えたわね。あずき、これを持って行きなさい」
あずきはサマンサからサンドイッチの包みを受け取ると、リュックに入れ、背負った。
旅立ちの準備は整った。
あとは先に進むだけだ。
「ここでのレッスンはこれにてコンプリート。必要最低限の魔法は叩き込んだからここからの旅に問題は無いでしょう。あとは応用。いい? 魔法はイメージよ。無限に広がるイメージに身を任せ、身体の中から都度、必要な魔法を取り出しなさい。言えることはそれだけ。さ、気を付けて行ってらっしゃい」
サマンサがあずきをギュっと抱き締める。
あずきもサマンサを抱き締める。
「うん、サマンサ。行ってきます」
サヨナラを告げると、あずきは再び箒にまたがった。
おはぎがヒョイっと箒の先端に飛び乗る。
「ベントゥス(風よ)!」
箒に
「フォルティス ベントゥス(強風)!」
穂先がブルっと震え、あずきは飛んだ。
初心者の館を背に、まだ見ぬ
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