第22話 森の中は危険がいっぱい 2
十分ほど走ったところで、あずきはリリィに追いついた。
リリィはそこで、一匹の巨大生物と対峙していた。
密集する木々を盾に、何やら牽制の魔法を放っている。
あずきはあまりの光景に目をむいた。
リリィの相手にしている生物。それは全長十メートル近くありそうな羽の生えた巨大なトカゲだった。
あずきはその生物を、学校の図書館に置いてあったファンタジー小説の挿絵で見たことがあった。
「ど、どどど、ドラゴン?」
その声に気付いたリリィがあずきに向かって叫ぶ。
「これは
「はい!」
あずきが慌てて返事をする。
ところが、その声に触発されたか、飛竜はリリィからあずきの方に向き直ると、あずきに向かってドスドス音を立てて駆け出した。
あずきは森の中の道を走って来たのだ。
当然、木々を挟んでいたリリィと違って、飛竜との間に
地響きを立てて迫りくる巨大生物にあずきの身がすくむ。
「逃げろ!!!!」
リリィの絶叫が聞こえる。
同時にリリィが放った魔法が次々と飛竜の背中に当たって小爆発が起きるも、飛竜はそれを物ともせずあずきに襲い掛かった。
恐怖のあまり、あずきには時間の流れがゆっくり感じられた。
――あ、これ死ぬかも。
飛竜の爪があずきに振り下ろされた
光の矢だ。
光の矢は狙いを
一瞬止まった飛竜に向けて、続けて何十本と光の矢が飛んでくると、凄まじい勢いで次々と身体に突き刺さった。
飛竜はその場から十メートルも吹っ飛び、近くにあった木に縫い付けられる。
飛竜はその視線を目の前の獲物たるあずきからあずきの背後に移した。
そこに何を見たのか。
次の瞬間、飛竜に刺さった光の矢が轟音を立てて一斉に爆発した。
視界を奪う強烈な光と爆発の轟音が去った後そこにあったのは、身体に大穴が開いた飛竜の死体だった。
どう見ても生きているようには見えない。
あずきはおはぎを肩に乗せたまま、そっと飛竜の死体に近寄ろうとして、何かを蹴飛ばした。
拾ってまじまじと見ると、それは爪の欠片だった。
見ると、飛竜の右手の親指の爪が途中で折れている。
あずきはちょっと考え、爪の欠片をポケットに入れた。
そこへリリィが走ってくる。
「あたしとしたことが、しくじっちまった。
リリィはあずきをひょいっと抱えるとドゥエに乗せ、自身はウーノに跨った。
リリィがウーノを走らせると、少し遅れながら、あずきの乗ったドゥエが追いだす。
――あの光の矢、どこから飛んできたんだろう。少なくともリリィさんの放ったものじゃないわよね。だって飛んできた方角が違うもの。リリィさんは飛竜の後ろ。でも矢はわたしの後ろから。じゃ、わたしを助けてくれたのは誰? それに、わたしがラクから落ちたとき、ケガしないように保護魔法で守ってくれたのは?
探知魔法に引っ掛からない以上、ここで答えを得ることは出来ない。
今はこの森を抜けることだけ考えようと、あずきは黙って前を向いた。
◇◆◇◆◇
二頭のラクは、当初の予定より少しだけ遅れて森を抜けた。
「案内人として、客を危険にさらしちまったのは完全にこっちの落ち度だ。これは返すとしよう」
リリィが懐からゴーレムの宝石を出して、あずきに差し出す。
「いえ、リリィさんのお陰で森を抜けられたのは確かですし、道中、きっちり仕事はしてくださったので、それはお約束通り案内料として納めてください」
あずきは受け取りを拒んだが、リリィはゴーレムの宝石をあずきの手に握らせた。
「なぜだか分からないが、こいつはこの先、あんたに必要になる気がするんだ。
あずきは宝石を見た。
リリィに言われたことによる先入観か、あるいは、目覚め始めたばかりの魔力器官が心に訴えるのか、あずきも何となくこの宝石に運命を感じた。
それならと、あずきはリリィと自分の勘を信じることにした。
きっとこの宝石は、どこかで必要になる。
そんな予感がした。
「そうだ、これ。リリィさんの魔法でくっつけられませんか?」
あずきが懐から出したドゥエの折れたツノを見て、リリィが首を振る。
「残念ながらそいつは無理だ。そいつもあんたが持ってな。どっかで必要になるかもしれない」
あずきはリリィの助言に従い、爪をバッグに入れると、箒に
空中からリリィに向かって手を振る。
リリィも地上から手を振り返す。
あずきは進路を街に定め、箒に魔力を送ると、街に向かって一気に飛んだ。
◇◆◇◆◇
街に向かって飛ぶあずきを見送ると、リリィは懐から出した杖で空中に小さな魔法陣を描いた。
数秒経って、魔法陣が光を放つ。
「リリィさん?」
魔法陣から若い女性の声が聞こえる。
「奈々かい? 今、あの子がそっちに行ったよ。あと数時間もすれば街に着くはずだ」
「わかりました。受け入れの準備をしておきます。で、どんな感じでした?」
「まだまだ練りが足りないが、そこはなにせ初心者だからね。今後の成長に期待ってとこだが、潜在能力としちゃスペシャルだ。今まで何人も見てきたが、ありゃ群を抜いてる。さすがバロウズの一族だ。八歳でこっちに迷い込むだけのことはあるよ」
「それはそれは。上手いこと導いてあげなくっちゃですね。昔のことは? 覚えてました?」
「いや、残念ながら覚えてないようだったよ。ママの忘却魔法が完全に効いてたね」
「それは残念。じゃ、
「頼んだよ、奈々」
「おまかせあれ」
会話の終了と共に、魔法陣は空に薄れて消えた。
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