第29話 あずきはレベルアップした 1
【登場人物】
おはぎ……黒猫。あずきの飼い猫。
リーロイ……ブラウニーの男の子。ルーミィの兄。
ルーミィ……ブラウニーの女の子。リーロイの妹。
ミーア……リーロイ、ルーミィの母。ブラウニーの隠れ里の魔法教師。
あずきは湖を背に、
岸から二十メートルは離れている。
いざとなれば、湖に飛び込めばいい。
あずきのすぐ横には、白エプロンを付けたブラウニーが立っている。
リーロイとルーミィの母にして、ここヴェルビアの森の魔法教師、ミーアだ。
「あの子は遊んでいるだけ。今までもこういうことはあったわ。それに、魔術師軍団が消火の為にスタンバイしてるから、延焼とかの心配はしなくていい。いい? わたしも一緒にいるから、あなたは魔法のコントロールに専念するのよ」
大きな魔法を行使するときは、身体の中の魔力だけでは
沼地での戦闘で息切れしたのは、まさにこれだ。
人一人の持つ魔法量など、たかが知れているのだ。
体の中の魔力は起爆剤とコントロール用として使うだけで、魔法そのものは自然界に溢れる
あずきはミーアに習ったことを、頭の中で
あずきの不安を打ち消そうというのか、ミーアが毛むくじゃらの手であずきの手を握った。
あずきがミーアにうなずく。
「さぁ集中して。知覚を拡散させて」
ミーアの声を聞きながら、あずきは目を閉じた。
身体という境界線を薄めて、そこから知覚を伸ばす。
あずきは寝ているのか起きているのかさえ分からない、光や音さえも消えた世界で、全ての感覚が希薄になり、自分という殻を越えて遥か先まで知覚が広がっていくのを感じた。
「そう、それでいい。次に精霊の気配を探って。今、力を借りたい精霊は何?」
あずきは考えた。
――相手は火属性の生き物なんだから、弱点と言えば水よね。なら今必要なのは、水の精霊の力だ。ちょうどそこに湖があるし。
不意にあずきは、体内の
次の瞬間、自分が様々な精霊に囲まれていることに気付く。
木にも、岩にも、湖にも。
自分を包む世界のそこかしこに様々な精霊が溢れているのを感じる。
「無事繋がったみたいね。その感覚、忘れちゃダメよ。一度繋がったから次からは楽に繋がるはず。さぁ、精霊と対話するのよ」
ミーアの声が聞こえる。
あずきは暗闇の中で水の精霊を見つけた。
そちらに向かって手を伸ばす。
――わたしに力を貸してくれる?
精霊がうなずく。
「イグナイテッド(着火)!」
あずきは魔法核を起動した。
直結した水の精霊の力が
――溺れる!!
感覚を共有していたミーアが、あずきの手を強く握る。
「落ち着いて。弁を作って出力をコントロールするの。ゆっくりとよ? だんだん自分の許容量が分かってくるわ。慌てなくていい」
あずきはゆっくり出力を絞った。
――このくらい……かな。よし、これなら何とか扱える。
あずきが精霊との対話に成功したことが分かったミーアが、ニッコリ微笑んであずきの手を離した。
あずきは目を開けた。
あずきの知覚が、森の奥で飛んでいる
――絶対に殺しちゃダメ。ブラウニーの工房の大切な火種だもん。威力を調整して気絶に留めなくっちゃ。
あずきは
「アクア サジータ デュエット(水の矢連弾)!」
あずきの杖の動きに合わせ、湖から水の矢が十本ほど飛び出した。
火竜に向かって水の矢が飛んでいく。
あずきは杖を顔の前に持ってくると、矢の軌跡をしっかり確認しながら何かぶつぶつ詠唱した。
「ポップ(弾けろ)!」
あずきの放った水の矢が、火竜の直前で弾け、つぶてに変わった。
通常は貫く攻撃だが、それだと火竜に与えるダメージが大きすぎる。
とはいえ、相当な速度が付いた散弾なので、かなり痛いはずだ。
案の定、こちらの存在に気付いて火竜が怒りの咆哮をあげた。
ベビーとはいえ、なかなかの咆哮だ。
怒り狂った火竜が急接近するのを感じる。
目視で確認出来る距離まで来て、火竜が空中で停止する。
その場で羽を羽ばたかせてホバリングしているのが見える。
口を開け、大きく息を吸い込む。
ブレスが来る!
ドン!!
森の中で食らったブレスも大きかったが、怒りのせいか、更に巨大な火球があずき目掛けて高速で接近してくる。
「アクアデウス マヌス(水神の手)!」
あずきはすかさず、宙に魔法陣を描いた。
初めて描くタイプの魔法陣だ。
――でも大丈夫。なんたって、水の精霊に直接教わったもんね。
あずきの呪文に応じ、湖から水で出来た巨大な右手が一本、ぬっと生えた。
その大きさたるや、指の一本一本が二メートルを超えるレベルだ。
あずきは杖を左手に持ち替えると、迫りくるブレスに対し、フリーになってる右手を無造作に振るった。
あずきの動きに合わせるように、湖から生えた巨大な水の手がブレスを叩き落とした。
火球が湖の中ほどに落ち、大爆発が起きる。
十メートルを超える水柱が上がり、辺りに雨かと見紛うほどの水しぶきを撒き散らすが、岸から離れているので被害は無い。
続けて来た二発目、三発目も、あずきは水の手で全て叩き落とした。
あずきは四発目を迎撃するべく身構えたが、一向に来ない。
あずきは注意深く火竜を観察した。
火竜のオーラの色が変わっている。
――ひょっとして息切れしてる? なら!
あずきは右手を火竜に向かって伸ばした。
湖から生えていた水の手が、あずきの腕の動きに合わせ、火竜に向かって伸びていく。
水の手はそのまま息切れしている火竜の横を通り抜け、後ろに回り込んだ。
次の瞬間、あずきは右手を思いっきり振った。
バッチーーン!
水の手による平手打ちをモロに受けた火竜は、凄いスピードで湖に叩き落された。
火竜はやがて湖面に浮き上がってきたが、ピクリとも動かなかった。
気を失っているらしい。
「いっけない、やりすぎたかも!」
「拾ってあげましょう」
あずきとミーアは、近くに停めてあったボートに乗ると、
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