第25話 下水道追跡劇 1
【登場人物】
おはぎ……黒猫。あずきの飼い猫。
「ルクス(光よ)!」
あずきが光を生み出すと、下水道の中が明るく照らし出された。
驚いたことに、そこには網の目のように地下通路が張り巡らされていた。
狭い支線でも直径三メートル。本線にもなると、直径五メートルは越えそうなほど広い通路となっている。
あずきの身長なら、頭をぶつけることなく余裕で歩けそうだ。
――地下にこんな世界が広がっているなんて……。
さすがに下水道だけあって
光のネズミとの接続はまだ繋がっている。
目を閉じれば、光のネズミの見ている景色を共有出来るのだが、さすがに下水管の中を目を閉じて移動することは出来ない。
ソナーだけ共有して、目はしっかり開けておく。
幸い、そんなに遠くなさそうだ。
「複数の気配がするね……」
肩に乗ったおはぎの
「オブスキュリタス オクーロス(暗闇の目)!」
あずきの目が薄っすら光る。
暗闇でも物が見えるようにしたのだ。
あずきは浮いていた光の塊を消すと、ゆっくり歩きだした。
◇◆◇◆◇
二十分ほど下水道を歩いただろうか。
光のネズミは光量を落とした上で、捜査対象のすぐ傍に待機させてある。
――もうすぐそこだ。
目を閉じ、光のネズミと感覚を共有する。
まぶたの裏に浮かんだ映像は、モコモコの毛皮に包まれたぬいぐるみのような容姿をした、身長三十センチほどの生き物だった。
――ブラウニーだ……。でも、なんでこんなところに?
サマンサの授業で習った、森の隠れ里に住む種族、ブラウニー。
木工細工や鍛冶が得意で、基本的に大人しい生活を送っている。
ブラウニーは成人でも身長五十センチ程度にしかならないが、このブラウニーは三十センチ程しかない。
推察する限り、かなり若い。
ひょっとすると、あずきと大差ないかもしれない。
だが、迷っていてもしょうがない。
このブラウニーが老婦人のネックレスを盗んだことに変わりは無いのだから。
――よし、やるか!
光度を限りなく落としていた光のネズミを一気に明るくさせた。
ブラウニーの周囲が一瞬で昼間並みの明るさになる。
あずきが駆け寄ると、そこに、左腕で目を庇った二匹のブラウニーがいた。
窃盗犯の後ろに、より小さなブラウニーがいて、窃盗犯にしがみついている。
「誰だ!」
手前のブラウニーが左腕で光を遮りつつ、
――ヤバい!!
「アクア パリエース(水の壁)!!」
その場に急いで伏せたあずきの前に下水が飛び出し、分厚い壁を作る。
あずきに届く前に下水で勢いを殺された
鈍く光る刃。
斧だ。
――あっぶなー!
「ルクス カルチェレ(光の牢屋)!」
辺りを
苦鳴の声があがる。
小さな方のブラウニーが駆け寄り、光の網を解こうと必死に引っ張るも、変化は無い。
小さい方のブラウニーの顔が光に照らされる。
その顔はかなり幼い。
光の拘束が解けないと分かって、小さいブラウニーが、今度はあずきに向かって泣きながら懇願する。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい! お願い、お兄ちゃんを離して! もうしません。許してください!」
女の子の声だ。
あずきが呆然と立ち尽くす。
「……この子たち、
「兄妹?」
「……どうする? これ」
あずきとおはぎは困惑の表情で顔を見合わせた。
◇◆◇◆◇
あずきが警察署に戻ると、ちょうど老婦人が奈々から事情聴取を受けているところだった。
「ちょっと待っててね、あずきちゃん。今、被害届を書いているところだから」
老婦人がこちらを見て、軽く頭を下げる。
あずきは一瞬
「おばあさん、被害届、待って貰っていいですか!」
「え?」
署内の視線が一斉にあずきに集まる。
「お探しものは、これ……ですよね?」
あずきは老婦人に向かって右手を差し出した。
あずきが握りしめていた拳をゆっくり開くと、その手に緑色のネックレスが乗っていた。
「まぁ!! それ、あなたが取り戻してくれたの?」
「あずきちゃん、あなた……」
老婦人と奈々が同時に声を挙げる。
あずきからネックレスを受け取った老婦人が、ネックレスをしっかりと胸に抱きしめた。
涙が一筋、その頬を伝う。
「亡くなった主人がくれた大切なネックレスだったの。あなたが取り返してくれたのね? ありがとう!」
感極まった老婦人があずきの手を握る。
その温かい手から、感謝の感情が伝わってくる。
あずきはストレートに感謝の波動を受け取り、照れて微笑んだ。
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