第24話 やってきました、東京タウン 2
私服に着替えた奈々に連れられて、あずきは東京タウンの繁華街に来ていた。
こちらはさすがに繁華街だけあって、そこらじゅう人が溢れている。
「各都市の人口は大小、差はあれど、だいたい十万人ってとこね。広さは百平方キロメートル前後。あなたの住んでる街と、広さも人口もそう大差無いと思うわ。月全体の人口でも、人間と
あずきは奈々に奢ってもらったソフトクリームを舐めながら、興味深そうに街の様子を見た。
繁華街は都心の観光地さながらの賑わいで、場所によっては歩くのも困難なくらい混んでいる。
おはぎもあずきの肩の上で目を丸くしている。
「この時期は、地球から月に観光に来る人たちで賑わっているの。夏休みだしね」
あずきは私服に着替えた奈々と一緒に東京タウンのあちこちを歩いた。
妹分を得て嬉しいのか、奈々があれもこれもと買ってくれる。
その様子はまるで、仲の良い姉妹が東京観光に来ているかのようだ。
「ねぇねぇ、この服可愛くない? 着てみようよ。お姉ちゃん、何でも買ってあげちゃう!」
「いやいや、悪いですし、何よりこの制服、脱いじゃまずくありません?」
「確かに。その服、さっきも言ったけど、ルナリアタウンにある魔法学校の制服なのよ。ただしそのマーク、校章の色が白でしょ? それが月宮殿を目指す
――そっか、だからサマンサさんのところに制服まで用意されてたんだ。
「ほらほら、タレントショップ。Tシャツでも買ってく?」
「え? なんで? え? この人、まさか……」
「そういうこと。あなたの思っている以上に、人間社会には魔法使いがいるのよ」
奈々があずきにウィンクを飛ばす。
あずきはタレントショップの看板を見ながら口をあんぐりと開けた。
そのタレントはあずきもTVで見て知っている人で、全く同じ看板のお店を東京の原宿に開いていることを知っていた。
いつか行こうと思っていた原宿本店より先に、東京タウン店に来てしまったのだ。
自宅を出てからここまで、驚くことばかりだ。
小学校最後の夏休み。
随分と刺激的なものになりそうだ。
「キャーーーーーー!!」
突如、悲鳴が聞こえた。
反射的に駆け出す奈々に、あずきも慌てて付いていく。
角を曲がった瞬間、あずきは何か小さな影とすれ違った。
気にはなったが、奈々に追いつくのが先だ。
あずきが着くと、そこには人垣が出来ていた。
掻き分け、中に入ると、奈々が老婦人を前に何か通信をしている。
「こちら
「あのネックレス、亡くなった主人に貰ったものなの。何とかして取り返して。お願いよ」
上品そうな服を着た老婦人が奈々にすがりついている。
それを
「ごめんね、あずきちゃん。お姉ちゃん、お仕事に戻らなくっちゃ。あとでまた署に寄って」
駆けつけた同僚警官たちと一緒に老婦人を連れて行く奈々を見送りながら、あずきは先程の様子を思い出していた。
「ねね、あずきちゃん。すれ違ったあの小さな影、怪しくない?」
肩に乗ったおはぎが小声でささやく。
「うん、わたしもそう思ってた」
「……やる?」
「……勿論」
あずきは裏路地に入ると、懐から取り出した杖で空間に魔法陣を描いた。
――さっき、まさにその犯人とすれ違った。まだ覚えている。今ならいける。わたしだけが犯人を追える!
「ルクシス スブスクウェンティス(光の追跡者)!」
あずきは魔法陣の前に左手を差し出した。
そこに光で出来た小さな二匹の生物が現れる。
ツバメとネズミだ。
揃って小首を傾げ、あずきを見上げる。
そんな二匹にイメージを注ぎ込む。
「分かるわね? さ、お行き!」
ツバメが飛び立ち、ネズミが走り出す。
それを見送って、あずきは目を閉じた。
それぞれの見ている光景が、閉じたまぶたの内側に薄っすら映る。
十分ほどして、ネズミの方に反応が出る。
下水道だ。
あずきが必要の無くなったツバメとの接続を切ると、光のツバメはそのまま空に搔き消えた。
あずきは近くのマンホールに駆け寄った。
月のマンホールのフタは、地球とほぼ同じ、
当然、重さも地球同様、四十キロ程度。
あずき如きの腕力で持ち上がるはずも無い。
――月にも下水道があるんだ……。不思議な話ではあるけど、人がこれだけ住んでれば、そりゃ下水道だって必要だよね。
あずきは迷わず、持っていた杖をマンホールに向けた。
「セクエレ メアンブルンターテム(我が意思に従い動け)!」
マンホールのフタがガタガタ音を立てて動いたかと思うと、ゆっくり宙に浮いた。
あずきが杖を横にスライドさせると、それに合わせてフタが動く。
あずきは眉をしかめながら、フタをマンホールのすぐ脇に置いた。
――出来た。
サマンサのところで習った物体移動の魔法だ。
初歩の初歩の魔法だが、意外と上手くいった。
あずきはマンホールを覗き込むも、中は真っ暗だ。
肩に乗ったおはぎと目が合う。
同時に頷く。
あずきは意を決し、マンホールに飛び込んだ。
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