第13話 スタートは初心者の館から 1
【登場人物】
おはぎ……黒猫。あずきの飼い猫。
「いい加減起きなってば。いつまで寝てるんだよ」
あずきのホッペを、何か黒い塊がペシペシと叩く。
あずきはベッドに
頬に当たる白くて清潔な枕がとても気持ちいい。
――しっぽだ。柔らかくて滑らかで長くて黒い……しっぽ。
あずきはガバっと跳ね起きた。
そこは、映画で見た西部開拓時代のようなカントリー風の内装の部屋だった。
昨夜何があったのか必死に思い出しつつ一人用のベッドで起き上がったあずきの前に、黒猫が鎮座する。
「おはよう」
黒猫がすまし顔で挨拶する。
「夢じゃなかった」
あずきは思わず頭を抱える。
「夢? なんか失礼なこと言われた気がするぞ。もう朝だよ。ほら急いで着替えて」
枕元に目を移すと、服が畳んで置いてあった。
開いてみると、それは、お嬢さま学校の制服のような可愛い服だった。
薄い格子の入った白のブラウス。
茶色の縦縞ベストに縦縞のロングスカート。
リボンタイとベレーにコート。
貴族の紋章のようなエンブレムの入ったおシャレなリュックまで置いてある。
昨夜祖母から聞いた通り、至れり尽くせりだ。
全体に茶味掛かっているが悪くない。むしろ可愛い。
――これを着ろってことよね、多分。
あずきは改めて周囲を見回した。
壁掛け時計の針は七時を指している。
窓から射す光の明るさから察するに、朝の七時ということで間違いないだろう。
あずきは着ていたパジャマをポンポンと脱いで下着一枚になると、脱いだパジャマを畳んで枕元に置いた。
急いで服を着替え、部屋の隅に置いてあった姿見の前に立つと、あずきはスカートをつまんでその場でクルっと一周した。
――うん、バッチリ! わたし、可愛い!
着替え終わったあずきは、おばあちゃんに渡された杖をスカートに挿した。
カントリー風の木製ドアを開けると、目の前に階下へと下りる階段があった。
意を決して階段を下りると、一階にはペンション風の内装をした十畳程の広さの部屋があった。
中央に四人がけの小さなテーブルが一つと、それを囲むように設置された椅子が四脚。
テーブルには、朝ごはん用のお皿が何枚か置いてある。
さすがに夏だからか暖炉に火は入ってなかったが、全体的に温かみのある居心地の良さげな部屋だった。
「おはよう! よく眠れた?」
キッチンから掛けられた声にビクっとしながら振り返ると、そこにはあずきの母・メアリーと同年代くらいの女性が立っていた。
何かを焼いているのか、手にフライ返しを持っている。
女性がニッコリ笑って椅子を指差す。
「そこに座ってて。今、オムレツが焼けるわ。何はともあれ、まずは腹ごしらえよ」
左手にフライパンを。右手にフライ返しを持ってキッチンから出て来た女性は、ベージュのエプロンワンピースを着て、頭には紺のバンダナキャップを被っていた。
その、いかにもカントリー風な着こなしが部屋の様子とマッチしている。
あずきは誘われるまま、椅子に腰掛けた。
あずきの目の前の皿に、焼き立てのオムレツが置かれる。
女性がフライ返しで真ん中に線を入れると、オムレツがパカっと開いて、とろっとろの中身が現れる。
「うわぁぁ!」
あずきが思わず感動の声を漏らす。
続いていくつもの皿がテーブルに続々と並べられる。
クロワッサンにオムレツ、カリカリベーコンに生野菜サラダ、バジルを散らしたコーンスープ。ヨーグルトにミルク。
どの料理も作りたてらしく、湯気が立ち上っている。
さながらホテルの朝食だ。
「さ、冷めないうちに召し上がれ」
「いただきます!!」
あずきは目を輝かせて朝食にかぶりついた。
「美味しい!」
「足りなかったらおかわりもあるから、遠慮しないで食べてね」
女性はあずきのストレートな反応に、思わず微笑んだ。
◇◆◇◆◇
三十分後。
あずきが朝食を食べ終わり、テーブルの上の食器を片付け終わって一息ついたのを見計らって、女性はあずきの向かい側の席に座った。
「何が起こってるのか正確に把握出来ていないと思うので、今から説明するわね。あぁでもまずは自己紹介を。わたしはサマンサ。ここ、初心者の館の管理人よ。あなたみたいな
あずきが頷く。
「OK。じゃ、あなたの名前を教えてくれる?」
サマンサの問いにあずきが答える。
「わたしは
「ハーフ? ご両親のお名前、教えて貰えっていい?」
「えっと、野咲圭介に野咲エミリーです」
「野咲……。聞いたこと無いわね。あ、でも、ママのお名前がエミリーなのね? ママの旧姓は知ってる?」
「勿論。エミリー=バロウズです」
「バロウズ? そっか、バロウズ家の人だったのね、あずきちゃんは」
一瞬記憶を辿るような表情をしたサマンサは、すぐに目当ての記憶を思い出せたのか、しきりに頷く。
「ご存じ……なんですか? 母の実家のこと」
「そりゃあね。有名ですもの。いくつかある名門魔法使いの家系の一つよ」
あずきは全く知らなかった。
でも仕方ない。
自分に魔法使いの血が流れていると知ったのも、つい昨日のことなのだから。
そんなあずきの
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