第14話 スタートは初心者の館から 2
蒸らしが終わったのか、サマンサはティーポットからカップにお茶を注ぐと、あずきの前に置いた。
「じゃ、そろそろ本題に入りましょうか。まずはこれを見て貰える?」
サマンサがバンダナを取ると、そこに現れたのは耳だった。
頭頂部あたりから直上に伸びる二本のソレは、見た目、ウサギの耳そっくりだった。
あずきはあまりのことに、思わず両手で口を覆った。
「ウサギの耳っぽいでしょ。でもこれは耳じゃないのよ。耳はあなた同様、顔の両脇に付いているわ」
サマンサはそう言って髪を掻き上げた。
確かにそこには普通の耳が付いている。
――えぇぇぇぇ? じゃその、いかにもなウサギ耳はなに? 東京ワンダーランド的なコスプレ?
「これは月の魔力を受信する感覚器官。いわゆる、魔力器官ってやつなの。ここ、月の原住民、
――今、重要なことをサラッと言われた気がする。
あずきはしっかり理解しようと、先ほどの言葉を必死に頭の中で
「はい、あずきさん!」
サマンサに指された。
まるで学校だ。
「えっと……わたし昨夜、祖父母の家の近くの湖に開いたゲートに飛び込んでここに来たんですね。だから、着いたのが湖の底面っていうならともかく、月……ですか? ロケットに乗った覚えは無いんだけどなぁ。それに今、普通に呼吸出来てるし」
「はいはいはい、みんな同じような反応するのよね。慣れちゃったわよ。でも現実を把握しないと先には進めません」
サマンサは学校の先生のようにあずきをいなし、続けた。
「歴史の話をしましょう。地球の暦で十二世紀頃、地球で魔女狩りが起こったの。魔女狩り、知ってるでしょ?」
「魔女狩り……ってなに?」
あずきの回答にサマンサが天を仰いだ。
「最近の子って! よもやそこから説明することになるとは!! ……いい? かつて地球では教会主導の異端迫害があったのよ。迫害は苛烈を極め、何の罪も無い人々が宗教の名のもと、沢山殺されたわ」
聞きながら想像したのか、あずきの表情が渋くなる。
「それを
「良かった……」
まるで映画でも観ているかのように、あずきはドキドキしながらサマンサの説明を聞いている。
サマンサはクスっと笑いつつ続けた。
「でも、残念ながらこの後すぐ賢者……『エディオン』って名前なんだけど、この賢者が亡くなっちゃってね。魔力を使い過ぎたのか、あるいは単純に寿命だったのか。ともあれ、賢者の死と共にゲートは閉じ、地球と月とは分断されてしまったの。そのせいで移民した人たちは慣れない月での生活を余儀なくされて苦労したわ。それでも死ぬよりはマシだったんでしょうけど」
サマンサはあずきの前に置いてあるコップに暖かい紅茶のお代わりを注いだ。
あずきがサマンサに向かってペコっと頭を下げる。
「そうして何年も何年も時が過ぎて。細々と連絡を取り合っていた地球組と移住組の魔法使いの子孫たちが、十八世紀になってようやくゲートを再度開くことに成功したの。魔法の技術も随分と進歩していたしね。そんなわけで、そこからまた地球と月の交流が再開し今に至った、というわけ。歴史としてはこんなところかな。ここまでは理解出来た?」
「は、はい!」
あずきが真剣な顔で頷く。
そんなあずきを見て、サマンサも頷く。
「でまぁ、歴史はこのくらいにするとして。実はあなたたち
「え? なんでですか?」
あずきがキョトンとする。
おはぎがテーブルの上に飛び乗り、丸くなる。
「それはね、地球は魔法の源であり制御物質である
「あら。ずいぶん物知りなのね、黒猫ちゃん」
サマンサが微笑んでおはぎの背中を撫でた。
おはぎが気持ちよさそうに目を
「と、ここでまた、月の女王さまと賢者との間で結ばれた盟約の話にもなるんだけど、女王さまは不思議な力があって他人の魔力回路を調整することが出来るのよ。それもあって、地球出身の初心者魔法使いは魔力に目覚めるとすぐ、月の女王さまに会いに行かなくっちゃいけないってわけ。さて。ここまで聞いて、自分がこれから何をすべきなのか理解出来た?」
サマンサが尋ねる。
あずきが恐る恐る口を開く。
「……月の女王さまに会いに行く、ですか?」
「ザッツライト! そう、女王の居城、ここから五百キロ先にある
「五百キロぉ?」
あずきは思わず、天を仰いだ。
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