第55話 秘密のティーパーティ 2
黒の女王・セレスティア=リーアは、椅子から立ち上がるとあずきの前に立った。
あずきも慌てて立ち上がって、セレスティアの前に行く。
相対したあずきに向かって、セレスティアは右手の指を出した。
セレスティアの指に黒い炎が灯る。
「
黒い炎はセレスティアの指から離れると、あずきの差し出した杖の先端に静かに吸い込まれた。
短杖に付いた青い宝石、ゴーレムの
「これで六属性揃った。助かる、セレスティアよ。あずき、戻るぞ」
「うん。セレスさま、また後で!」
「いってらっしゃい、あずき。わたしの末の妹……」
黒の女王はその場でそっと手を振った。
あずきは手を振り返し、薄れて消えた。
◇◆◇◆◇
現世に戻ってすぐ、あずきは今度はペンダントの中にダイブした。
黒の女王の像の中――セレスティア・リーアの精神世界から更に内面世界に潜ることはできないからだ。
――あぁもう、
あずきは再び、タマゴの前に立つと、再び
魔法核が回転し、身体の中を魔力が勢いよく循環し始める。
身体の中から火、水、風、土、光の五属性の精霊が出て、あずきの傍に浮かぶ。
否、六属性だ。
闇を加え、六属性の精霊があずきの傍で脈動していた。
あずきはタマゴに手を当てると、六属性の魔力を一種類ずつ注入した。
一つ属性を注入する度に、一つカギが開く。
――ここまでは、さっきと一緒。じゃ、これで、どう?
あずきは続けて、闇属性の力を注ぎ込んだ。
と、カギが解除され、扉が開いた感覚があった。
タマゴの中のモノが起きた気配がする。
だが、喜んだのも束の間、そこから先が続かない。
「なんで? 開いてるじゃない! とっとと出て来なさいよ!」
あずきがタマゴに向かって叫ぶ。
賢者エディオンがタマゴに手を当て考え込む。
「……これ、ヘタっておるの」
「ヘタってる? ってどういうこと?」
「お腹が空いておるようじゃ。冬眠から覚めた直後のクマみたいなもんじゃの。ボーっとしておるわ」
「じゃ、どうすればいいの?」
賢者が少し首を傾げる。
「とりあえずこういう生き物は、宿主から栄養を摂取するから、あずきの魔力を与えてやるのがいいんじゃないかのぅ。いけるか?」
「分かった。やってみる」
あずきは集中すると、体内の魔法核を全力で回転させた。
身体の中を所狭しと、精霊たちが勢いよく飛び回るのが分かる。
あずきは再びタマゴに手を当てると、沸き出した魔力を手のひらから一気に注入した。
堰を切ったかのように、あずきの魔力がタマゴに流れ込む。
だがこれは、あくまで体内で形成している魔力だ。
自然界から借りている力ではない。
人一人の魔力など、たかが知れている。
こんな調子で放出していたらあっという間に魔力切れを起こす。
――ちょっといい加減にしてよ! まだ? これでもまだダメなの? 食いしん坊もいい加減にしなさいよ!!
そのとき。
タマゴにヒビが入った。
ヒビが、どんどん広がっていく。
そして。
ピィピィピィピィ!!
「デカい、デカい、デカい、デカい!」
殻が割って現れた何かが、空間中に響く大声で盛大に鳴く。
あまりの騒々しさに、あずきは思わず両耳に手を当てた。
「これ、何?」
「何……じゃろうのぅ……」
割れたタマゴから出てきたもの。
それは、黄色くて、毛がふわふわで、小さなクチバシがあって……。
「ヒヨコ?」
「にしては、サイズ感が……」
それは、あえて言うなら、全長二メートルのヒヨコだった。
あずきに気付いて、ヒヨコが鳴き止む。
「どうするよ、これ」
「どうするったってのぅ……」
「ん? ちょっと待って、ご先祖さま。ホワイトファングって言ってたよね、名前」
「言ったが?」
「それ、誰に教わった? セレスさま?」
「いや、それはわしの命名。セレスは『なんか凄いのが入ってる』って教えてくれただけ」
「ホワイト?」
「黄色いのぅ」
「ファング?」
「クチバシじゃのぅ」
「誰の命名ですって?」
「わし。だって、セレスが『とてつもないモノだ』って言うんだもん! さぞかし強い召喚モンスターかと思うじゃろ? だから知恵を絞りに絞って、カッコいい命名をしたんじゃ」
あずきは賢者をジト目で見ると、盛大にため息をついた。
「どおりで中二病っぽいネーミングだと思った。とりあえず名前負けするからホワイトファングは却下で。んーー、『ピーちゃん』でいいや。間抜けな顔してるけど、封印されてたくらいだから見た目に反して凄く強いのかもね」
親愛の情なのか、ヒヨコがあずきに体を擦り付ける。
モコモコのフワフワだ。
肌触りが尋常で無く良い。
あまりの気持ち良さに、あずきの顔が知らずニヤけてくる。
「ねね、ご先祖さま。乗っていい? 乗っていい?」
「いいんじゃないか? 多分、それが正解じゃと思うぞ」
「重くないといいんだけど……」
あずきがヒョイっとヒヨコに飛び乗ると、ヒヨコが勢いよく走り出した。
ピィピィピィピィ!!
声を聞く限り、嫌がっている感じは無さそうだとあずきは思った。
むしろ、楽しんでいるようだ。
「では、現実世界に戻るぞ、あずきよ」
「うん!」
ヒヨコに乗ったあずきの姿が、徐々に薄れて消えた。
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