第11話 知っておいてもらいたい
みんなと別れ、俺――
家に着くと荷物を置き、すぐに
それから五分くらいで到着し、呼び鈴を鳴らしてみた。しかし応答はなく、静寂が流れる。
「……出ないか」
時間を置いてもう一度鳴らしてみるが、やはり応答はない。家にいないのだろうか。
一応学校を出る前にLIMEでメッセージを送ってみたが、そっちの反応も未だなく既読すら付いていなかった。
「電話にも出ないし、困ったな」
本当なら今すぐに謝りたいところだが、居る場所が分からないせいでどうすることもできない。
海佳が行きそうなところを片っ端から探すとしても、今からではどう考えても時間が足りない。
少し時間を置いて、また電話をかけてみる。それでもし出てくれなかったら、海佳のお母さんが帰ってくるタイミングでまた家に訪問することにしよう。
そう決めて再び家に戻り、俺は一週間後の中間テストに向けて勉強を始めた。
海佳のことが心配でならないが、今は勉強を……。
「……集中できねぇ」
できなかった。
本来ならば集中して勉強に取り組まなければならないのに、今は海佳のことで頭がいっぱいだった。
今日のように、海佳が突然怒ってどっか行ってしまうのはよくある事だ。その度に、俺は何も手がつかなくなってしまう。
「やっぱり今すぐにでも電話をしよう」
このままでは下手したら一日勉強できず、貴重な時間を無駄にしてしまう。
よって早急に解決する必要があると判断し、ベッドに投げ捨ててあったスマホを手に取った。
そして履歴で一番上にあった海佳とのトークルームを開こうとした瞬間、突然画面が変わり携帯が震え始めた。
画面には『
「もしもし?」
『もしもし。藤山くん、今お時間よろしいですか?』
「あー、うん。大丈夫だけど、どうかしたの?」
『はい。
「なるほど……」
桜島さんからの電話は初めてだったため驚いたが、どうやら俺と海佳のことが気になったらしい。
同時に、図書室での一件は自分にも非があった、と謝ってくれた。確かに桜島さんが事の発端であると言えなくもないが、どう考えても俺の方が悪かったため気にしなくていいと言っておく。
『東雲さんとは仲直りできましたか?』
「いや、実はまだなんだよ。家に行っても出てこなかったし、連絡しても既読すら付かないからさ」
『それは心配ですね。東雲さんと喧嘩、よくするんですか?』
「うーん。まあ、してるかも。小さい頃からずっと一緒にいるからね。最近はあまりしてなかったけど、衝突することは多いよ」
『仲がいいんですね』
「……え? あ、うん」
心なしか、先程と声色が変わった気がした。
だがその後は何事も無かったかのように普通の声色に戻ったため、恐らく勘違いだろう。
『藤山くんに提案があるんですが、よろしいですか?』
「提案? なに?」
『私がストーカーに遭って藤山くんが助けてくれたこと、東雲さんに言ってませんよね?』
「うん。もちろん言ってないよ」
『東雲さんになら、言ってもいいですよ』
「……え?」
提案と言われ少し嫌な予感がしたが、どうやら杞憂だったようだ。
しかし、桜島さんがストーカーに遭ったことは誰にも言わない約束だったはずだ。
彼女自身絶対誰にも知られたくないだろうし、今すぐにでも記憶から消したい過去のはず。
なのにどうして、海佳には言っていいと自ら忌まわしい過去を広めてしまうように言い出したのだろうか。
『元々私と藤山くんはあまり喋ったことがありませんよね。きっと東雲さんは私と藤山くんが突然仲良くしていたのを見て、混乱してしまったのでしょう』
「……かもな」
『なので、東雲さんには私と藤山くんが仲良くなった経緯を知ってもらう必要があると思ったんです。知ってもらえば今後仲良くしてるところを見られても、今日のようなことは起こりません』
「なるほど……ありがとう、桜島さん。海佳のこと気にしてくれて」
『いえいえ。では、そろそろ切りますね。東雲さんにも悪いですし』
「うん、本当にありがとう」
そして電話は切れた。
俺は再び桜島さんにお礼のスタンプを送り、続いて海佳とのトークルームを開く。
迷うことなく電話をかけると、意外とすぐに繋がった。
『……も、もしもし』
「海佳、ごめん。図書室でのことなんだけど――」
『会いたい』
俺の言葉を遮るように、小さな声でそう呟いた。
「……え?」
『直接会って話したい』
「わかった。今どこにいる?」
『……家の近くにある公園』
「了解。すぐ行くから待ってろ」
『……うん』
電話を切り、急いで海佳がいるという公園に向かう。
家が近いということもあり、走ってすぐに目的地に到着した。
到着するとすぐに、ブランコに座りながら俯いている海佳の姿を発見したため走って向かう。
「海佳!」
「あ、綾人……あの、ごめんなさい。急に帰っちゃって」
「いや、海佳は悪くないよ。全部俺が悪いんだ」
「でも……」
「俺が何も話さなかったのが悪かったんだ。ごめん」
「綾人……」
俺は今まであったことをすべて海佳に話した。
主に桜島さんとのことだが、海佳はその出来事を終始驚きながら聞いていた。
当然だよな。だって現実じゃ有り得ないことばっか起こってるし。漫画の世界かよ、って自分でも思うもん。
すべて話し終わると、海佳は納得したように頷いた。
「そうだったんだ。それで桜島さんはあんなに綾人にくっついてたんだ」
「それは恐らく桜島さんがふざけてただけだと思うけど……」
「そっかぁ」
海佳は真顔で、「そっかそっかぁ」と繰り返す。怒ってるの? 怖いからやめて。
「……あの、海佳さん? もしかして怒ってます?」
「? 最初から怒ってないけど、急にどうしたの?」
「いや、なんでもないです。すいません」
本当に怒ってない? 絶対怒ってるよね。怖かったから反射的に謝っちゃったよ。
はぁ、と心の中でため息をつくと、海佳に突然名前を呼ばれた。同時に腕を掴まれ、離さないと言わんばかりに力強く抱きつかれる。
「お、おい? 海佳?」
「ちょっとだけこのままでいさせて」
「……」
俺には突き放すことなどできず、されるがままの状態になってしまう。とりあえず頭を撫でると、海佳は嬉しそうに頬を緩めた。
それからこの状況がしばらく続き、なんとか事なきを得たのだった。
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