第6話 買い物と栗色縦ロール
カフェを出ると外が暗くなっていたため、
家に着く頃には二十一時半を回っており、家では鬼のような形相の
「遅い! どこで何をしていたの!?」
桜島さんとカフェで話していた。なんて言えば、余計怒らせてしまうかもしれない。
あまり海佳を怒らせたくはなかったため、遅くなった理由は適当に誤魔化すしかなかった。
そして今度埋め合わせをすると約束をして、なんとか事なきを得たのだった。
すると翌日の昼過ぎ、早速埋め合わせをしてほしいと海佳から連絡が来た。
今日は土曜日であり、学校は休みだ。
さらに海佳が入っているバドミントン部は午前練だったらしく、今から付き合ってほしいとのことだった。
『了解!』と犬が敬礼しているスタンプを送ると、俺からの返信を待っていたのかすぐに電話がかかってくる。
『もしもし』
「もしもし。今から付き合ってほしいって、行きたい場所でもあるのか?」
『うん! 買い物に付き合ってほしいの』
「俺は荷物持ち要員かよ……」
『嫌?』
「全然嫌じゃないよ。いつものことだろ」
今日のように、俺が海佳の買い物に付き合わされるのは日常茶飯事である。
なぜなら海佳はお菓子作りが趣味で、週に一度お菓子を作っているため必然的に材料が必要となるからだ。
作ったお菓子はみんなに食べてもらいたいらしく、学校に持ってきて友達に配っているのをよく見かける。
もちろん俺もよく貰っている。海佳のお菓子は本当にめっちゃ美味しいから、食べたことがない人には是非一度食べてほしいものだ。
『ありがと。じゃあ、十四時に綾人の家行くね』
「わかった。待ってるよ」
『うんっ!』
可愛らしい返事とともに電話は切れた。
集合時間まであと一時間と少しある。何もやることはないし、約二週間後に控えた中間テストに向けて勉強でもしておこう。
ふと気がつくと、勉強を始めてから既に一時間が経過していた。
そろそろ海佳との約束の時間なため、勉強道具を片付けて出かける準備を始める。女子ほどの時間はかけないが、ある程度身だしなみを整えてから外に出た。
「まだいないか」
スマホで時間を確認すると、約束をした十四時ジャスト。
海佳とは家が近い。歩いて五分くらいだ。
準備に時間がかかっているだけなのかもしれないが、何かあったのだろうかと心配になる。
「迎えに行くか」
家に来ると言っていたが、ここで何もせず待っているよりかは迎えに行った方がいいだろう。
そう思い歩き出した直後、慌てた様子の海佳がこちらに駆け寄ってきた。
「ご、ごめん! 私から誘ったのに遅れちゃって……」
「全然遅れてないから大丈夫だよ。気にすんな」
「
俺の腕に自分の腕を絡めて、ぎゅっと抱きついてくる。同時に部活後とは思えないほどの甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「ちょっ……!? やめろ! 外だぞ! 誰かに見られたらどうすんだ!」
「え〜? 別にいいじゃん。毎日してるでしょ?」
「してませんが!?」
「してるもん!」
してないわ。記憶どうなってんの?
「綾人は私にくっつかれたら嫌なの?」
「別に嫌ってわけじゃないけどさ、色々あるだろ。普通に恥ずかしいし」
「ふーん? 恥ずかしいんだ」
「そりゃそうだろ」
海佳とは幼馴染で小さい頃からずっと一緒にいるが、一応は女子である。
小学生まではあまり気にしなかったが、中学生からは思春期ということもあってどうしても気にしてしまう。
「可愛いから許す」
「いや、意味がわからん」
「可愛いは正義だからね」
「それ女子に対して男子が言うやつだろ」
どこに可愛い要素があったのかは分からないが、組んでいた腕を解いてくれる。
ようやく解放されて一息つくと、なぜか海佳は目を細めて小悪魔を思わせる笑みを見せる。
すると直後、「えいっ!」と可愛らしい掛け声とともに、つい先程解いたばかりの腕を再び俺の腕に絡めてきた。
「おいっ!? 許してくれたんじゃないのかよ!?」
「よく小さい頃もこうやって腕組んでたでしょ? だからその時のこと思い出して楽しくなっちゃって」
「小さい頃? よく腕組んでたっけ?」
「組んでたよ! 忘れちゃったの!?」
思い返してみるが、一緒に近所の公園を走り回ってた記憶しかない。
「酷い! 罰として今日は一日私と腕組むこと! 分かった!?」
「いや、それはさすがに……」
「分かった!?」
「……はい」
身長は小さいが、謎の圧力がある。
どうして女子って、怒るとこんなにも怖いのだろう。
小さい頃によく腕を組んでいたのかは定かではないが、それを確かめる方法は今はない。家に帰ったら確認してみよう。
もし海佳の言っていることが正しければ、覚えていない俺が悪いためちゃんと謝罪をする。もし海佳の言っていることが嘘であれば、その時はお説教だな。
腕を組みながら歩くこと約二十分。目的地である駅前のショッピングモールに到着した。
今日の目的はお菓子作りの材料を買うこと。荷物持ち要員である俺はカゴを持ち、海佳と一緒に食品売り場を回り始めた。
「次は何を作る予定なんだ?」
「久しぶりに生チョコケーキ作る予定」
「お! 生チョコケーキか!」
「ふふっ、綾人チョコ好きだもんね」
「おう! 楽しみにしとく」
「天才パティシエ海佳ちゃんに任せといて」
えっへん! と自慢げに胸を張り、上機嫌に鼻歌を歌う海佳。
天才パティシエとか、プロのパティシエに怒られるぞ。
だが、海佳の作るお菓子は本当に美味しい。
プロと比べてしまうとまだまだ未熟なのだろうが、俺からすれば海佳のお菓子が世界で一番美味しい。プロのパティシエなんて知ったことではない。海佳のお菓子が一番なのだ。
まあ、本人には絶対言えないけど。
「じゃあ、早く買い物終わらせて帰るか」
「うん!」
それからは食品売り場を回り、生チョコケーキを作るために必要な食材を揃えていく。
食材としては必要な物は多くないため、揃えるのに時間はあまりかからなかった。
二人でレジに並び、黙々とレジに通されていく食材たちを眺める。そしてその様子を、誰かに見られているような気がした。
「綾人? どうしたの?」
「誰かに見られてるような気がして」
「えぇ、気のせいじゃない?」
いや、これは気のせいなんかではない。
最近視線を感じることが多くなり、周りからの視線に敏感になっているからよく分かる。俺たちは今、確実に誰かに見られている。
こちらを見ている奴に悟られないように慎重に店内を見回すと、商品棚の影にいる栗色の縦ロールを見つけた。
「あいつ……」
「え、なに? どうしたの?」
「悪い。会計したら待っててくれ」
「? うん、分かった」
海佳にはちょっとトイレに行ってくると伝え、栗色の縦ロールにバレないようにヤツの元へ向かう。
そして後ろ姿を見つけ、バレないようにひっそり歩いて背後を取った。
「おい」
「っ!?」
黒色のフードを被って素性をバレないようにしているみたいだが、トレードマークの栗色縦ロールは隠せていない。
真後ろから声を掛けると、ビクッと体を震わせた。
「バレバレだぞ」
「あ、あはは。バレちゃったかぁ……」
俺と海佳を物陰からじっと観察していたヤツは、黒色のフードを取った。
そいつの名は、栗色縦ロール……ではなく。俺たちがよく知っている人物、
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