第33話 ストーカーの正体を暴くために

 俺には悩みがある。

 ある日、女子高校生――もとい桜島さくらじまさんをストーカーから助けてからずっと悩んでいる。


「今日もか……」


 外を歩くと、ほぼ毎日のように俺のことをストーキングしている人がいるのだ。

 当初は俺の気にしすぎで、ストーカーに遭っているなんて有り得ないと思っていた。

 しかし今ではもう、ほとんど確信に変わっている。

 どこの誰なのか。そしてストーキングしている目的は何なのか。何も分からないが、早急に対処する必要がある。

 今まで不審な人物に話しかけられた覚えはないため、恐らくストーカーからの接触はない。

 ただ少し離れた場所から見られていて、付けられているだけ。ほとんど毎日のように。

 足がかりは一切なく、相手の顔や名前は分からないため捕まえようにも捕まえられなかった。


「……よし」


 今日は日曜日で、これからショッピングモールにある本屋に行く予定だ。

 その途中で、ストーカーの正体を暴いてみせる。

 相手の素性を知らない以上、もしもの時に備えておく必要もあるだろう。


 ショッピングモールに到着した。

 視線を感じる。どうやらストーカーはちゃんと付いてきてくれているようだ。

 俺は階段を上って目的地である本屋へ向かう。

 今上っている階段は、あまりお客さんには使われていない階段。エレベーターやエスカレーターがあるため、わざわざ労力を使う必要はないからだ。

 そして階段を上り終えると、颯爽と近くにある自動販売機と壁の間に動画撮影中のスマホをセットした。誰にもバレないように、念の為周りを見てから隠しておく。


「頼むぞ……」


 あとは待つだけ。

 俺は本屋に向かい、ずっと待ち望んでいた好きな作品の続刊を購入する。

 まだ視線は感じる。ということは、俺のスマホにはストーカーの姿が映ったはずだ。


 急いでスマホを回収し、帰路に就いた。

 家に着けば、盗聴器やカメラがセットされてない限りは安全だ。さすがにそこまではされてないだろう。

 ベッドにダイブし、恐る恐る動画の再生ボタンをタップする。


「なんで……」


 何も映っていなかった。

 撮影された約二十分の映像には、スマホをセットし回収する様子の俺しか映っていない。

 ストーカーの姿を確認したことは今まで一度もない。よって、ストーカーの存在は不確定だ。

 やはり気のせいだったのだろうか。自意識過剰だったのだろうか。


「いや、違う」


 ストーカーは確かにいるはずなんだ。

 外に出ると、視線は学校の内外関係なく感じる。

 つまりストーカーの正体は、同じ高校の生徒もしくは教師のどちらかである可能性が高い。

 放課後もよく視線を感じるため、仕事中である教師の線は薄い。

 ということは、ストーカーは同じ高校の生徒であると考えられる。


「でも、なんで映ってないんだ?」


 ストーカーなんて本当はいないから、と結論づければすぐに解決する。

 それ以外に考えられるのは……。


「さすがに人気のない場所への誘導は警戒されたってことか?」


 いつもは通らない場所や、よく行く場所など。

 ほとんど毎日のように尾行されていれば、それらの情報はほとんど把握されているということになる。

 今日俺が行った場所は、家が近いためよく行くショッピングモール。

 すなわち、いつもは使わない人気のない階段を上ろうとすれば警戒されてしまうのは必然だ。


「結構いい作戦だと思ったんだけどな」


 残念ながら、今日の作戦は失敗に終わってしまった。

 次だ次。

 次こそは絶対に捕まえてみせると意気込み、今日の失敗を活かして作戦の考案を始めたのだった。


 ふと気がつくと、既に朝日が昇っていた。

 どうやら一睡もせず、ずっと作戦を考えていたらしい。

 成果は特になし。名案を考えついても、上手くいく可能性が低いと判断し却下し続けた結果だ。

 時間の浪費にもほどがある。俺の時間を返してほしい。

 酷い眠気に襲われながらも制服に袖を通し、学校に行く準備を始める。と言っても、学校に行ってもどうせ昼寝しかしない気がするが。

 支度を終えて家に出ると、ちょうど海佳うみかが家にやってきた。


綾人あやとおはよー」

「おはよう、海佳」

「なんか眠そうだね。夜遅くまで何かしてたの?」

「ああ、まあな」

「へぇー、珍しいね。何してたの?」


 俺がストーカーされている可能性が高いことは、あまり他の人には言わない方がいいだろう。

 海佳には悪いが、嘘をつくしかない。


「漫画読んでただけだよ」

「漫画? ふーん」

「……なんだよ」

「なんでもないよ。てっきり綾人は紅音あかねちゃんに悪いことしちゃったって悩んでてて眠れなかったのかと思ったよ」

「それは一週間前のことだろ。もう解決したし、悩む必要なんてない」

「あっそ」


 興味をなくしたのか、視線を逸らされてしまう。

 自分から聞いてきたくせに。


「……で? 本当は何してたの?」

「いや、だから漫画読んでただけだって」

「嘘つき」


 え、なんで俺が嘘ついたのバレてんの?


「やっぱり気づいてないんだ。綾人って嘘つく時、絶対目合わせて話さない癖あるから分かりやすいんだよ」

「え、まじ?」

「まじまじ。だから白状しなさい」

「っ……」


 言われるまで気づかなかった。

 俺のことをよく見てくれているという証明でもあるため、嬉しいと思うと同時に少し怖いとも思う。

 だが、絶対に言うわけにはいかない。

 よって次は慎重に、海佳の目をちゃんと見ながら答えることにした。


「定期テストの勉強をしてたんだ。分からないとこがあったから、ずっと悩んでた」

「ふーん? 定期テストってまだだし、そんなに根をつめて勉強する必要なくない?」

「次は1位取りたいんだよ」

「あっそ」


 よし、なんとか誤魔化せたな。


「……で、どうしてまた嘘つくの?」

「ううう嘘じゃないけど!?」

「バレバレだよ。綾人、私が言ったこと意識して次はちゃんと私と目合わせながら言ってたし。あ、さっき言った癖は嘘だよ」

「……」


 俺の幼馴染、恐るべし。

 なんかもう、何もかも見透かされてるようで怖いとしか言えない。


「白状しなさい」

「……分かったよ」


 諦めるしかなかった。

 海佳に嘘は通じないから。

 長年一緒にいると、こんなにも相手のことが分かるようになるのだろうか。俺、海佳の考えてることとか全然分からないんだけど。


「でもちょっと外じゃ言いづらいから、今日家帰ってからでもいいか?」

「うん、いいよ」


 斯くして、海佳には俺の秘密を明かすことが決まった。

 そしてもう二度と嘘はつかないようにしようと誓ったのだった。

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