第36話 ようやく明日で
それから俺たちはストーカーの正体を暴くため、
期間は一週間。俺は普段と変わらず、ストーカーに作戦を悟られないように毎日を過ごした。
見事に作戦は上手く行き、ストーカーがどのような人物なのかまでは分かった。
『ストーカーって怖いね……』
『うん。まさか毎日のように
今日は作戦を始めてから、ちょうど一週間が経った日。
一週間前と同じように俺と海佳、
作戦中も毎日のように、グループ電話でその日のことについて簡単に情報共有をしていた。
三人で外で集まって話すよりかは、こちらの方が相手に悟られず安全に情報共有できると思ったからだ。
それにしても、海佳と遥香が予想以上に活躍してくれたおかげでストーカーの正体に一歩近づけたのはでかい。
「こいつが俺のことをつけてたのか……」
グループのトークルームに送られたアルバムを開き、画像をタップしてから横にスクロールしていく。
二人が撮った写真には、全て同一人物であると思われる人が写っていた。
その人物はどの写真でも灰色のパーカーを着ていて、俺たちと同じ高校の制服のスカートを穿いている。
フードを被っているため顔はよく見えないが、ストーカーの正体はやはり俺たちと同じ高校の生徒。そして女子であるということが判明した。
「二人とも顔は見れなかったんだよな?」
『うん、ごめんね』
『顔がバレないようにサングラスとマスクしてたっぽいから見えなかったんだよね』
「なるほどな……」
顔さえはっきり分かればいつでも捕まえに行けるが、現実はそう甘くないらしい。
『綾人、ごめんね』
「いや、大丈夫だよ。ストーカーの正体に一歩近づけたんだ。二人には感謝してる」
二人の協力がなければ、こんな短期間で正体に近づけなかっただろう。
そう考えると、二人に秘密を打ち明けてよかったと思う。
『綾人……』
『綾人くん……』
「あとは捕まえるだけだ。危険を伴うかもしれないけど、もう少しだけ付き合ってほしい」
『もちろんだよ。綾人のストーカーには幼馴染の私からガツンと一言言ってやりたいからね!』
『うん、海佳の言う通りだね。綾人くんをストーカーするのがどんな子なのか、私も気になるし』
「ありがとう、二人とも」
素直に嬉しくて、下げた頭が上がらない。
いい友人を持ったと心から喜んでいると、なぜかスマホから不気味な笑い声が聞こえてきた。
「ん? どうした?」
『いや、楽しみだなぁって』
「……へ?」
『ストーカーを捕まえたら、綾人からたっぷりお礼してもらわないと』
『どんなお礼してくれるか、私も楽しみだなぁ』
なっ……!? ま、まさかお礼目当てだったのか!?
「そりゃ二人にはお礼はもちろんするけどさ、普通にご飯奢るってだけじゃダメですかね?」
『えー、つまんなーい』
『奢るだけなの?』
こちらはお世話になってる身。
二人の協力がなければ何もできなかった。
なんならストーカーの正体に近づけたのは、ほとんど二人のおかげ。
よって俺はその働きに応じた報酬を与える必要がある。
「…………二人の言うことなんでも聞きます」
『『それで決まりね』』
「うっ……ストーカーを捕まえることができたらの話だからな」
『大丈夫だよ』
『三人もいれば囲んで捕まえられるでしょ』
事が上手く進めば、遥香の言う通りで捕まえられるかもしれない。だが、そんなに上手くいくだろうか。
たった三人の場合は人気のない場所に誘いこみ、逃げ場をなくさない限りは囲んで捕まえるのは難しい。
俺が一人で正体を暴こうとした時なんかは、ストーカーは人気のない場所まではついてこなかった。
「どうだかな……」
『綾人くんが囮になってくれば案外簡単に捕まえられると思うよ。ストーカーは綾人くんについていってるわけだし、私と海佳もいるしさ』
遥香の言う通りなのかもしれない。
一人の時は失敗しても、人が二人も増えれば結果は変わる可能性がある。
俺と遥香の話を聞いて、海佳は何かを思いついたかのように声を上げた。
『それなら、次の休みにとりあえず綾人が一人でやった作戦をまたしてみる? 人気のない場所に誘いこむってやつ』
『そうだね。でもモールだとさすがに逃げ道多そうだし、学校でやってみたらいいかも。学校だったら教室とかに逃げられても絶対見つけられるし』
『じゃあ決行は明日の放課後とかがいいかな』
『うん、いいね』
「俺としてはすごく嬉しいけど、部活とか大丈夫なのか?」
『少し遅れたって何も言われないよ』
『バド部は緩々だからね〜』
むしろサボれてラッキーだよね、と二人は笑いあっている。
それでいいのかバド部……。
「じゃあ、分かった。明日もよろしく頼む」
『『任せといて』』
上手くいけば、ようやく明日でストーカーから解放される。
そう思うと、まだ解放されていないはずなのに清々しい気持ちになってくる。
『あ、綾人』
「ん? どうした?」
『お礼のこと、ちゃんと覚えといてね』
「…………はい」
最後の海佳の一言によって、ストーカーから解放されてほしくないとちょっとだけ思ってしまった自分がいた。
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