第37話 作戦成功、かと思いきや
次の日の放課後、俺は一人で席を立った。
まずは教室を出て、特に用事があるわけではないが図書室へ向かう。少し時間を潰すと、図書室を出た。
そして図書室の近くにあるトイレへ向かい、個室に入ってドアを閉めてからポケットに入れているスマホを取りだした。
「もしもし」
『もしもし。大丈夫、
「了解」
教室を出る前から、
俺はいつでも指示に従えるように片耳だけ無線のイヤホンを付け、三人で連携してストーカーを捕まえる作戦だ。
逃げ道のない場所に誘い込めるかが作戦のキモになる。うまく誘い込めれば、三人で囲めばいい。
『一階は窓から逃げられる可能性もあるから、二階とかの方がいいかも』
「そうだな。あ、でも階段で挟み撃ちだったら確実じゃないか?」
『いいね。じゃあ、階段で』
「了解」
作戦はこうだ。
遥香の合図とともに俺は勢いよく階段を上り、ストーカーは少し遅れてたとしても見失わないようにと駆け上がってついてくる。
遥香たちはそのストーカーの姿を追って階段を上る。
そして俺は遥香たちが階段を上ったのを確認するとUターンし、ストーカーが逃げられないように挟み撃ちするという感じだ。
「じゃあ、頼むぞ。二人とも」
『『うん』』
俺はトイレを出て、階段をゆっくりと上っていく。
一つ、また一つと階段を上り、やがて一階と二階の間にある踊り場に足を踏み入れた。
続いて二階に入ろうとしたところで、遥香に名前を呼ばれる。
『綾人くん、行くよ』
「おう」
遥香の合図が聞こえると、俺は勢いよく階段を上り始めた。下にいる人たちに俺が駆け上がっていることを知らせるように、大きな足音を立てて上っていく。
そして再び遥香から合図が。
「よし」
俺はUターンをし、急いで下の階へ向かう。
すると二階と三階の間にある踊り場で、ようやく俺を約一ヶ月半つけていたストーカーと対面することになった。
驚くべきことに、作戦は上手くいったのである。
ストーカーは俺の存在に気づき、二階へ戻ろうとするがもう遅い。
遥香と
「お前、一体誰なんだ」
「……」
灰色のフードを被り、顔を隠すようにマスクをしている女子。目だけは見えているが、それだけでは誰だか判別できない。
ストーカーは俺の質問には一切答えようとせず、すっと一度息を整えた。
その後すぐにフードが取れないように片手で押さえ、階段の手すりに華麗に飛び乗った。
「「「なっ……!?!?」」」
予想外の行動に、俺たちは一歩も動くことができない。
やがてストーカーは手すりの上を走って包囲網を突破し、どんどん階段を下りていく。
「まじかよ……! 一階だ! 追いかけるぞ!」
「「う、うん!」」
逃がすわけにはいかない。
捕まえるまであと一歩だったのに。
ここで逃がしてしまえば、今後は警戒されてしまいもう二度と捕まえられない可能性がある。
俺たちは急いで一階へ向かい、走って逃げるストーカーを追う。
ストーカーは外に出て、校舎裏の方へ向かっていった。
少し距離があるが、相手は女子。走力なら負けないはずだ。
「綾人! 先に行って!」
「私たちは先回りするから!」
「わかった! じゃあ、また後でな!」
「「うん!」」
遥香、海佳と別れ、俺は全力でストーカーを追いかける。
校舎裏まで行くと、テニスコートが見えてきた。
「あ、あれ……?」
どこにもいない。
ストーカーが来てからまだ時間は全然経っていないはずだ。
だが周りを見回しても、どこにも灰色のパーカーを着た女子はいなかった。
「いや、嘘だろ……そんなわけ……」
まだ近くにいるはずだ。
そう思い走ろうとすると、突然角から
どうして桜島さんがこんなところにいるんだ?
「あれ、
「あ、ああ。桜島さん、灰色のパーカー着た女の子見なかった?」
「灰色のパーカーを着た女の子……あ、はい。見ましたよ。つい先程あちらの方に走っていきました」
桜島さんは俺の正面方向を指差して、何かあったのかと心配そうにこちらを見つめてきた。
「ありがとう。あ、桜島さんはどうしてテニスコートにいたの?」
「テニス部の子が忘れ物をしたみたいで、届けに来てたんです」
「そうなんだ。優しいね」
「いえいえ、人として当たり前のことをしただけですよ」
「そっか。じゃあ、また明日学校で」
「はい。また明日」
桜島さんと別れ、俺は目撃情報をもとに再び走り始める。
しかし、結局ストーカーを見つけることはできず、遥香と海佳の二人と合流した。
「綾人、ストーカー女は?」
「ごめん。見失った」
「そっか……私たちも先回りしたはずなんだけど、どこにもいなかった」
「あと少しだったのに……」
「大丈夫。まだ次があるよ」
「でも……」
そう、もう次はないに等しい。
ストーカーされていると本人に気づかれ、その本人に捕まえられそうになったんだ。警戒しないはずがない。
もしかしたら、もうストーカーの正体を暴くのは難しいかもしれないな。
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