第38話 ストーカーの正体
残念ながら、俺たちの作戦は失敗に終わってしまった。
ストーカーの正体は分からず終い。
その後も何度か正体を暴こうと手を尽くしたが、しばらくはストーカーが姿を晦ましていたためすべて失敗に終わった。
その反省会を俺と
「もう捕まえるのは無理かもね……最近は
「今まで毎日のようにストーキングしてたなら、あの後もストーキングし続けるかと思ったんだけどね」
「捕まえられそうになったんだ。さすがにこれ以上したらやばいと思ったんだろ」
「このまま綾人をつけるのはきっぱりやめてくれるといいんだけど」
「本当にそう願うばかりだ」
まだ俺をストーカーするのをやめたと決まったわけではない。
今は姿を晦ましているが、いずれまた現れて俺をストーキングし始める可能性は無きにしも非ずだ。
今まで俺をずっとつけていたということは、それほどまでに俺に執着していたということ。
まだストーカーの目的は達せられていない。その目的が何なのかは考えたくもないが、達成するまで俺をストーキングし続けるだろう。
「じゃ、またね綾人」
「……え? このまま帰らないのか?」
「うん。綾人くんには秘密で、私たちだけで話さなきゃいけないことがあるから」
「なんだよそれ」
「綾人には関係ないよー」
「海佳の言う通り、綾人くんにはほんと関係ないからー」
視線を逸らしながら棒読みで言う二人。
絶対俺に関係のあることだろ。
「本当かよ」
「「ほんとほんとー」」
嘘に違いない。
「はぁ……分かったよ。じゃあまた明日な」
「うん、ばいばい」
「またねー」
俺には話したくない内容なのだろう。悪口かな……ぐすん。
さすがに悪口はない……と思いたいが、俺は二人と別れて一人で帰るべく悲しく歩き始めた。
何もやることはない。あとは家に帰るだけ。
しばらく歩き、家まであと少しの距離になったところで、ふと違和感に気づく。
「……っ」
誰かに見られている。
とても久しぶりな感覚。今までずっと視線を感じていたのに、最近はあまりなかったため余計久しぶりに感じた。
恐らくあのストーカーが復活したのだろう。もしくは、海佳と遥香がいなくなったタイミングを狙っていたのだろうか。
「どこから見てやがるんだ」
周りを見回すが、ストーカーの姿は見当たらない。
「くそ……」
一人ではどうすることもできず、唇を噛みしめる。
あまりにも無力。結局のところ、ストーカーを捕まえられそうになったのも海佳や遥香の協力があったからだ。
諦めて海佳たちに連絡をしようと思い、携帯を取ろうとポケットに手を入れた瞬間。
「――は?」
灰色のパーカーを着て、フードとサングラス、マスクで顔を隠したストーカーが突然姿を現した。少しずつゆっくりと歩を進めてこちらに近づいてくる。
いや、なんで? 何が目的なんだ?
まさかこいつ、俺のことを……。
「どうして俺のことをつけるんだ? 目的を教えろ」
「……」
返事はない。当たり前か。
「お前は誰なんだ?」
「……」
質問には一切答えず、こちらに近づくのをやめないストーカー。
逃げた方がいいかと思った瞬間、ストーカーはサングラスとマスクを順番に取った。
しかし深く被られたフードのせいで、顔はまだよく見えない。
「お前は……」
「ふふふ。私が誰なのか、分かりませんか?」
透き通った声が響く。その声は最近になってよく聞くようになった声と似ていた。
やがてストーカーはフードを取り、ずっと隠していた顔が露わになった。
服で隠していた腰まで伸びた綺麗な黒髪を靡かせ、サファイアのような美しい碧眼でこちらを見つめてくる。
「…………桜島、さん?」
「はい。ふふっ、
「いや、だって……」
つまり俺を今までずっとストーカーしていた女=桜島さんということになる。
いや、まだ勘違いの可能性がある。
偶然桜島さんが灰色のパーカーを着ていて、ストーカーと同じような服装になってしまっていたのかもしれない。
「桜島さん、なのか?」
「なにがですか?」
「俺を約一ヶ月半ずっとつけていたのは、桜島さんなのか?」
「ふふふっ」
桜島さんは口に手を当てて、不気味な笑みを浮かべる。
「はい、私ですよ」
「そんな……どうして……」
ストーカーの正体が桜島さんだとは思わなかったため、驚きを隠せない。
だが、俺のストーカーが現れたのは桜島さんをストーカーから助けた数日後。詳しく言えば、桜島さんが学校に来るようになってから。
そして学校でストーカーを追いかけていた時、桜島さんがストーカーで嘘を言って誤魔化したのだとしたら。
今までの俺に対する言動や、行く先々のほとんどに桜島さんがいたことに合点がいく。
「どうして? 簡単なことですよ」
「……え?」
「藤山くんのことが好きで好きでたまらないから。藤山くんをもっと近くで感じたいから。藤山くんに私を感じてもらいたいから。それだけです」
「それだけって……」
好きだと言われるのは素直に嬉しい。
だがその高揚感よりも、感じたことのない恐怖感が勝っていた。
今まで生きてきた中で、不気味な笑顔を浮かべながら好きだなんて言われたことは一度もない。
「俺たちはちゃんと話すようになってからまだ一ヶ月半くらいしか経ってないのに、どうして……」
「時間なんて関係ありませんよ。どれだけ長く一緒にいようが、どれだけ相手のことを詳しく知っていようが、関係ありません。たとえ一ヶ月半でも、気持ちの大きさは誰にも負けない」
「……一つ聞いてもいいかな」
「はい、どうぞ」
「どうして俺の前に姿を現したんだ? 前に捕まえようとした時は逃げたのに」
桜島さんは再び不気味な笑みを浮かべる。
「私が藤山くんのことをつけているのがバレていた。でも、正体は知られていないまま。なんて勿体ないんだろう、って思ったんです」
「勿体ない?」
「はい。だって正体を知ってもらえれば、藤山くんはもっと私のことを考えてくれるじゃないですか」
狂っている。
そう思わざるを得ないほどに、桜島さんの言動や仕草はいつもの彼女とは別人のようにかけ離れていた。
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