第39話 彼との出逢い
私――
同じクラスの
今まで一度も話したことはない。同じクラスといっても、一緒のクラスになってからあまり時間が経っていないからだ。
彼への認識は、いつも男女二人ずつの四人グループで行動しているうちの一人ということだけ。
顔はよく見ると少しかっこいいけれど、別に私の好きなタイプではなかった。
そんな彼が、ストーカーに誘拐されそうになっていた私を助けに来てくれた。
「ちっ、見つかっちまったか」
「お前がその子を誘拐しようとした証拠の写真は撮った。観念しろ」
「……観念? 意味のわからない事を言うガキだな。はぁ、ムカつくんだよなぁ。お前みたいなヒーロー気取った格好つけ野郎を見てると反吐が出る」
「勝手に吐いとけ。クズ野郎」
ストーカーに向けた彼の表情は少しだけこわばっていた。
当たり前だ。誰だって犯罪者と対峙するのは怖いに決まっている。今すぐ逃げたいくらい怖いはずなのに、私のためにストーカーに立ち向かってくれた。
それが本当に、本当に嬉しかった。
だけど後日判明したのは、彼は助けた子が私だと気づいていなかったこと。
……いや、普通助けた子の顔くらい見ない? 普通見るよね? おかしいよ絶対。
でもそれは私だから助けたのではなく、誘拐されそうになっていた子がいたから助けたとも言える。
自分の容姿が他の子よりも優れていて、周りの人からちやほやされていることくらいは分かっている。
だからこそ、私だから特別に助けたのではないことが分かって本当に嬉しかった。
「優しいんだ……」
その事実を知った瞬間、ずっと周りの人たちから特別視されていた私は、私を特別視せずに助けてくれた彼のことを好きになってしまった。初恋だった。
彼のことを考え始めると、周りのことなんてどうでもよくなってしまう。感情が溢れ出して、抑えられない。
好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き――!
学校に行けない間はずっと。ずっと彼のことだけを考えていた。頭の中は彼のことでいっぱいだった。
私が学校に再び行くようになるとすぐに彼と私のツーショットが学校中で出回り、私と彼が付き合っているのではないかと噂されるようになった。
白状してしまうと、あのツーショットや噂を学校中に広めたのはすべて私である。
私と彼が話す時間と場所に、何かしらの手を使ってクラスメイトを数人呼び出すだけ。見事に作戦は上手く行き、みんなはちゃんと私たちのことを噂してくれていた。
一応言っておくと、私と彼が関係していることはほとんどすべてが私の手によって動いている。
全部が全部、私の仕業である。
すべては私と彼が仲良くなり、彼に私を好きになってもらうため。
まあ、全部時効で許してくれるよね。
そして彼と出会ってから、私の一日は早く始まるようになった。
平日は朝六時には学校に……ではなく、彼の家に着くように準備を始める。この時間はまだ彼は起きていない。
なぜ学校に行かず、わざわざ遠回りをして彼の家に行ってから学校に向かうのか。理由は言わずもがな。
それからは彼についていきながら学校に向かい、一緒に授業を受ける。
学校にいる時は本当に夢みたいな時間だ。彼の隣の席は私しかいないから、彼を独占することができる。
よく
放課後になると、みんなは部活に行き始める。だけど、私たちは違う。帰宅部だから、みんなが学校に拘束されている間は私たちだけの時間になる。
一緒に帰り(後ろをついていき)、稀に欲望が抑えきれなくなると偶然を装ってお茶しないかって誘うこともあるね。
彼のお家に着くと、私は入れないから彼の部屋の窓が見える位置に身を隠す。傍から見たら不審者だと思われるかもしれないけれど、周りの目なんてどうでもいい。私の目には映っていないから。
部活の時間が終わると、よく東雲海佳が家に来る。あの女だけは絶対に許さないと、毎度心に誓いながらその様子を見ている。
一度強行突破で私も中に入れてもらおうと思ったこともある。だけどまだその時ではないと、踏ん張って耐えた。
大体外が暗くなり始めたら、私は家に帰る。本当は帰らずもっとずっと一緒にいたいけど、一人の女子高校生×夜は危ない組み合わせだから帰るしかない。
一回それで知らないおじさんにナンパされたことあるし。まあ、睨みつけたらすぐ逃げていったけど。
休日の彼はよくショッピングモールに出かけることが多い。
本屋で漫画を買ったり、スタベでフラペチーノを飲みながら勉強したり、当てもなくウィンドウショッピングをしたり。
ごく稀に女の子とも遊んでいるみたいだけど、その様子を見たいとも考えたいとも思わないから割愛するね。
そんな感じで、私は彼の日常を知れてすごく嬉しかった。
一つ、また一つと彼について知れて、もっと知りたい。彼のことを一から百まで全部知りたいと思った。
そして私が家に帰ると、決まってすることがある。いや、家に帰った時限定じゃないかな。家にいる時はずっとしてるかも。
平日も休日も関係なく、毎日のようにずっとしていること。
それは撮った写真を家の壁に貼って眺めることだ。
もちろん撮った写真に写っているのは、すべて彼の顔。
笑っている顔。照れている顔。真面目な顔。少しムスッとして怒っている顔など。挙げていけばキリがない。
今となってはもう、壁四面と天井は彼の写った写真コレクションで埋め尽くされている。
「藤山くん……藤山くん……! ふふふ……ふへへ……」
我ながら何をやっているのだろうと思う。
だけど、やめようと思ってもやめられないのだ。
彼のことになると我を忘れてしまう。
彼のことを考えると止まらなくなってしまう。
好きな気持ちが抑えられない。
「……邪魔」
しかし写真を撮っていると、稀に異物が一緒に写ってしまうことがある。
特にあのちっちゃい女などの異物を見つけると、必ず切り取るようにしている。
視界に映らないでほしいから。視界に映したくないから。邪魔でしかないから。
そう、彼の周りには邪魔者が多い。
彼と中学からの仲らしい
濱崎陽太は男だから警戒する必要はないけど、私と彼が仲を深める上ではずっと一緒にいるヤツは邪魔者でしかない。
そしてなにより……。
「東雲海佳……!」
私の憎き相手。一番警戒しなければならない相手。
小さくて可愛らしく、料理上手らしい。
さらに彼とは小さい頃からずっと一緒だという。
はぁ……普通に有り得ない。よくいるんだよね。
小さい頃からずっと一緒にいる幼馴染だからって、自分の方が彼をよく知っていることをアドバンテージとしてマウント取ってくる女。
本当に大っ嫌い。邪魔でしかないし、今すぐ私と彼の前から消えてほしい。
たとえ彼がそれを拒んだとしても、いち早く消えてほしい。その寂しさは私が埋めてあげればいいし、幼馴染なんかではできないことを私が彼にしてあげればいいんだもん。
邪魔者はいずれ消す。
それまで待っててね、藤山くん。
邪魔者を全員排除して、ゆっくりと、着実に、私のものにしてみせるから。
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