第40話 ストーカーからの解放
俺――
「まさか
「ストーカー?」
桜島さんは首を傾げる。
まるで見に覚えない冤罪をかけられているように。
「なんのことですか?」
「いや、桜島さん俺をストーカーしてるでしょ?」
「私が藤山くんをですか? してるわけないじゃないですか」
意味が分からない。
今までのやり取りや言動を察するに、桜島さんがストーカーで間違いない。
しかし虚言を吐いているというわけではなさそうだ。
自分がしている行為がストーカーであることに気づいていないのか。それとも桜島さんの他にストーカーがいて、ストーカーの正体は彼女ではないのか。
だが前者も後者も有り得ないと首を横に振る。
桜島さんは一度ストーカー被害に遭っているため分かっているはずだし、これまでの言動はストーカーそのものだ。
「私は藤山くんのことをもっと知りたいだけなんです」
「……え?」
「ストーカーなんかではありません。ただついていってるだけです」
「それをストーカーって言うんですけど!?」
「違います!!」
「えぇ……」
頑なに自分がストーカーしていると認めない様子を見て、訳が分からず拍子抜けしてしまう。
ただついていってるだけって……えぇ?
「言ったじゃないですか。藤山くんのことが好きで好きでたまらないから。藤山くんをもっと近くで感じたいから。藤山くんに私を感じてもらいたいから、ついていってるだけって」
「それをストーカーって言うんじゃ――」
「だからストーカーじゃないです!」
だめだ……もう本当に意味が分からない。
ストーカーの概念ってなんだっけ。
このままでは埒が明かない。
そう思ってポケットからスマホを取りだし、
するとすぐに二人は駆けつけてきてくれて、俺と桜島さんを交互に見て何があったのかと首を傾げた。
桜島さんは二人を見て一瞬苦虫を噛みつぶしたような顔を見せたが、何事もなかったかのようにすぐに不気味な笑みを浮かべた。
「
「え……もしかして……」
遥香は早速状況を察したらしい。
同時に、俺をずっと困らせていたストーカーが桜島さんであることも分かったようだ。
「ああ。俺をストーカーしていたのは桜島さんだったんだ」
「え、桜島さんだったの!?!?」
衝撃の事実に二人は驚きを見せる。
そんな様子を見て、先程からずっと不気味な笑みを浮かべている桜島さんはぷくりと頬を膨らませた。
「だから私はストーカーじゃないですよ。ただ藤山くんのことをつけてるだけです、って何回言えば分かるんですか?」
「「それストーカーじゃん!!」」
やっぱり海佳と遥香もそう思うよね。俺、間違ってないよね。よかった。
「分かっていただけませんか……残念です」
「「「こっちのセリフだわ!」」」
でも、と海佳が続ける。
「なんで桜島さんが綾人のことつけてたの?」
「あなたに言う義理はありません」
「なっ!? かっちーん! はい、怒りましたー。もうどうなっても知らないから!!」
「あなたみたいな貧相な体で、私に勝てるとでも?」
「貧相な……ひんそ……」
海佳は自分の体と、桜島さんの体を交互に見た。
やがて気づいてはいけないことに気づいてしまう。
桜島さんは出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる。
対して海佳は、引っ込んでいるところしかない。例えるならばカルデラ。
……ご、ごめんなさい。そんな目でこっち見ないでください。違うよね。海佳は華奢なだけでカルデラなんかじゃないよね。
いや、なんで口に出してないのに俺が考えてたことバレてんの?
「ま、まあ、二人ともその辺にしとけ。一応街中だし」
「「はい」」
二人を制止させたところで、ようやく本題に入れる。
「俺は桜島さんにスト――」
「ストーカーじゃないです」
「あ……はい。俺は桜島さんにつけられてる。結構キツい言い方になるかもしれないけど、正直迷惑なんだよ。俺のことつけるの、やめてくれないか?」
「やめる? どうしてですか?」
「いや、だから迷惑なんだ。毎日のように視線感じるし、つけられてるって分かって嬉しいと思う人なんていないだろ?」
先程まで不気味な笑みを浮かべていた桜島さんだが、今では笑顔は消えて無表情になってしまっている。
あのクラスのマドンナである桜島さんと仲良くなれて正直、俺は思わず飛び跳ねてしまうレベルで嬉しかった。
だけど、そんな桜島さんにスト……つけられていると分かって、一度距離を置いた方がお互いのためになるのではないかと思い始めている。
友達ではなく、ただの同級生に戻った方がいいのではないかと。
元々俺たちは接点なんてなかった。
あの時ストーカーから助けた偶然がなければ、接点なんて一生なかったに違いない。
だから戻るだけだ。クラスのマドンナと、ただ同じクラスなだけの男子生徒に。
それでいいんだ……。
「迷惑、ですか。そうですか……」
「うん」
「(……ならどうしてあの二人はよくて、私はだめなの?)」
「……え?」
「……いえ、なんでもありません。では、私はもう帰りますね」
桜島さんは肩を落として、俯きながら去っていく。
俺はそんな悲しそうにする背中を見つめながら、ある事を考えていた。
恐らくだが、桜島さんは俺をストーカーするのをやめてくれるだろう……やめてくれると思いたい。
小声ではっきりとは聞こえなかったが、もし俺の聞こえてきた言葉が合っているのだとしたら。
「桜島さん! ちょっと待って!」
俺がこれからやろうとしていることは、誰が聞いてもふざけていると思うかもしれない。
それでも俺は……。
「桜島さんは俺のことをもっと知りたいと思ったから、俺をつけてたんだよね」
「はい」
「でもさ、そんな遠くから見てて俺のことなんて分かるはずがないだろ?」
「分かりますよ! 好きな食べ物や嫌いな食べ物、起床時間や就寝時間。寝る時は豆電球をつけなきゃ寝れないこと。あとは……」
「なんで知ってんの!?」
「藤山くんのことならなんでも知ってます」
自慢げに胸を張る桜島さん。
普通に怖いんだけど。やめとこうかな……。
「……でもさ、全部は知らないでしょ?」
「それはまあ、確かにそうですけど……」
「わざわざ遠くから俺のこと見なくても、俺のこと知れるんじゃないかな。むしろ近くにいた方が知れるでしょ。だから俺たちは友達なんだし、遠くから見るんじゃなくて一緒に時間を過ごせばよくない?」
「もしかして……あ、愛の告白ですか?」
「違うけど!?」
「だってずっと一緒にいようって……」
確かにニュアンスは合ってるけど、全然違う。
「はぁ……とにかく、俺のことをもっと知りたいならこそこそつけるのなんてやめて、近くで知ってほしいって思っただけだよ。嫌なら別にいいけどさ」
「……いえ。すごく嬉しいです。まさか藤山くんが私のことを好きで、片時も離れたくないだなんて……」
「だから違うって」
「では、そうさせていただきますね。私はもう帰ります。藤山くん、これからもよろしくお願いします」
「うん。こちらこそよろしく」
なんかすごい誤解されてるかもしれないが、とりあえずは一件落着と見ていいだろう。
これで桜島さんは俺をつけ回すのをやめてくれるに違いない。
やっと解放されるんだ。学校内外関係なく気を張らなければいけない毎日から。
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