第41話 解放されたはず……(?)

 家を出て、いつも通り海佳うみかと学校に向かう。

 しかし、いつもとは違うことが一つだけあった。

 昨日までは家を出てから常に感じていた視線。

 だけど今日はそんな毎日が嘘だったかのように、視線を感じなくなっていた。


綾人あやと、どう?」


 昨日何があったかを知っている海佳が心配そうにこちらを見つめてくる。

 海佳は俺のストーカーを捕まえるために、危険を伴うかもしれない作戦に手を尽くしてくれた。

 ストーカーを捕まえたらお礼をする。

 勝手に決められたことではあるが、手伝ってくれた海佳と遥香はるかには感謝しているためちゃんとお礼をしなければならない。


「大丈夫だ。視線は感じない」

「そっか。よかった」


 自分の事のように嬉しそうにしている海佳を見ると同時に、ストーカーにつけられていた日々を思い出す。

 期間としては約一ヶ月半だろうか。

 ようやく解放されたんだと思うと、嬉しくて街中なんて関係なく叫びたい気分だ。


「ああ、本当によかったよ。ありがとうな、ストーカーを捕まえるの手伝ってくれて」

「いえいえ。でも結局私が捕まえたわけじゃないし、お礼されるようなことは何もしてないよ」

「そんなことはない。海佳と遥香がいたから、ストーカーの正体を暴けたんだ。感謝してもし尽くせないよ」

「ふふっ、そっか。じゃあ、お礼楽しみにしてるね」

「おう、任せとけ」


 海佳だけでなく、遥香にもお礼しないとな。

 あの二人にお礼するとなるとかなり骨が折れそうだが、二人がしてくれたこと以上にお礼をしないと気が済まない。

 ちゃんと恩返しできるように頑張ろう。そう思いながら、学校へ向かったのだった。


 学校に到着し教室に入ろうとすると、なぜかいつもより少し騒がしかった。

 何かあったのだろうかと、海佳と首を傾げながら教室に入る。

 するとクラスメイトは一度静まり、一斉にこちらに視線を向けてきた。男子からの視線は殺意がこめられているような気がしなくもない。


「……え、なに?」


 怖い怖いと思いつつも、自分の席に向かおうとするが違和感に気づく。

 それは海佳も同じようで、俺より先に走って俺の席へ向かった。


「ちょっと!! なんであんたが綾人の席に座ってんの!?」


 なぜか俺の席に座っている人に、海佳は憤慨した様子で距離を詰めていく。

 するとなぜか俺の席に座っている人は不気味な笑みを浮かべた。


「私と藤山ふじやまくんはずっと一緒にいなければならないんです。学校に一緒に行くためにお家に伺おうかと思いましたが、東雲しののめさんというな存在がいると思ったのでやめておきました。なので藤山くんが学校に来るまで、藤山くんの席で待ってたんです」


 明らかに邪魔という言葉を強調し、海佳を煽る。

 なぜか俺の席に座っている人。いや、なぜかは分かっている。

 昨日ストーカーするのをやめるように言った結果がこれだ。いい方向に進んだのか、悪い方向に進んだのか。恐らく答えはどちらでもない。


「邪魔? 今邪魔って言った? 私からしたら桜島さくらじまさんの方が邪魔なんだけどなー?」

「あら、奇遇ですね。まさか思っていたことが一緒だなんて」

「「「いや、意味が分からないんだが」」」


 昨日あったことを何も知らないクラスメイトは全員が首を傾げている。

 そんなクラスメイトの中には、羨ましいとこちらに視線を向けてくる者(主に男子)もいる。

 いや、この状況見てなんで羨ましいと思えるの?


「えっと、とにかく退いてくれないか? 俺が座れないんだけど」

「何を言ってるんですか? 座れますよ」


 なぜか俺の席に座っている人、もとい桜島さんは自分の太ももをぽんぽんと軽く叩く。

 何を言っているのか分からず混乱していると、ふふっと不気味な笑い声が聞こえてくる。


「私の膝の上に座れますよ。はい、どうぞ」

「「「!?!?!?!?」」」


 この場にいる全員が驚いただろう。あの二人に何があったのかと。

 再び自分の太ももをぽんぽんと軽く叩き、続いて両手を広げて俺が座るのを待つ桜島さん。

 そんな彼女を見て、この場にいる全員が混乱し開いた口が塞がっていない。もちろん俺もだ。


「何してるんですか? 早く座ってください」


 やがて桜島さんは我慢できなくなったのか、呆然としている俺の手を引っ張って強制的に自分の膝の上に座らせる。

 もちろん俺はすぐに我に返って桜島さんから身を離したが、ずっとこちらを見ていたクラスメイトたちは黙っていない。

 それからも学校にいる間はほぼずっと俺にべったりな桜島さんを見て、再び風のように一瞬で学校中に噂が広まっていった。俺と桜島さんが付き合っていると。

 違うのに。付き合ってないのに……。


 放課後ではもう、学校にいるすべての人が知っていた。

 廊下を歩けば、必ずと言ってもいいほど指を差される。

 ……あれ? ストーカーはいなくなったはずなのに、なんでまた視線感じなきゃいけないの?

 どうしてこうなった……。


 もう耐え切れず、俺は急いで学校を後にした。

 外では誰からも見られず、ようやく殺意のこめられた視線を感じなくなる。

 助かったと安堵のため息をつき、ゆっくりと家に向かって歩き出す。

 もうストーカーはいない。視線を感じることはない。


「解放感……!」


 俺はあまりの嬉しさに両手を大きく広げる。

 しかし。

 もうストーカーはいない。いなくなったはずなのに。

 周りを見回すが、どこにも人気は感じられない。

 なのにどうして、まだ視線を感じるんだ……?







あとがき

最後まで読んでいただきありがとうございます!

この話で、第1章完結となります!!


そして10万文字突破と同時に、ようやくカクヨムコン9に参加できる文字数になりました! 長かった……。

次話からは第2章。どんな展開になるでしょう……?


少しでも面白いと感じた方は是非、☆レビューをお願いします!

フォローや応援コメントも待ってます!

よろしくお願いします!!

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