2.ストーカーから解放されたと思ったら再びストーカーに遭うようになった

第42話 新たなストーカー

 俺――藤山綾人ふじやまあやとをずっとストーカーしていた奴の正体が判明し、ようやく解放されて平穏な日々に戻ろうとしていた矢先。


「なんで……」


 もう終わったと思っていた。

 すべて解決し、ストーカーがいなくなったと思っていた。

 だがそれは、ただの思い込みに過ぎなかった。

 今まで毎日のように感じていた視線はクラスのマドンナ、桜島さくらじまさんによるものだった。

 今回も桜島さんなのだろうか。まだストーキングをやめてくれたわけではないのだろうか。

 恐る恐るスマホを取り出し、桜島さんに電話をかける。

 するとまるで俺からの電話をずっと待っていたかのように、1コール目で電話が繋がった。


『もしもし。藤山くんから電話をかけてくるなんて初めてですね。すごく嬉しいです』

「あ、ああ。桜島さん、一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

『はい……あ、もしかして今日の私の下着の色ですか? ええっと……』

「違う違う違う! 確認しないで!?」


 きっぱり否定すると、残念そうにため息をつく桜島さん。

 もし本当に聞いたら教えてくれるのだろうか。

 少し。ほんの少しだけ気になるが、今は邪な考えを抱いている場合ではないと首を横に振る。


『では、私の何を知りたいんですか?』

「桜島さんのことを知りたいとは一言も言ってないんだけど……まあ、似たようなことかな」

『なんでもどうぞ』

「えっと、桜島さんって俺のことつけるのやめてくれたんだよね?」

『…………もちろんです』


 なんだ今の意味深な間は。


「……うん、そうだよね。じゃあ、今どこにいる?」

『まだ学校ですよ。先生にお手伝いを頼まれたので』

「まだ学校なのか……本当だよね?」

『もちろんです』

「わかった、ありがとう」

『いえいえ。あの……もしよかったら、一緒に帰りませんか? 用事はすぐ済ませますので』

「あぁ、ごめん。今日はちょっと用事があるんだ。また今度でいいかな」

『絶対ですよ』

「……うん、わかったよ」


 絶対と言う桜島さんの圧が少し怖かったため、承諾するしか選択肢がなかった。

 だが結果的に、今俺をつけている奴の正体が桜島さんではないことが分かった。


 桜島さんとは別のストーカーだ。

 どうやら俺は勘違いをしていたのかもしれない。

 ストーカーは一人だけだと思っていた。

 同時期に二人以上いるかもしれないという可能性を考えていなかった。

 そんなことがあるのだろうか。

 同時期に二人以上にストーキングされている人なんて、ネットやニュースで一度も見たことはない。

 桜島さんがストーキングをやめた時期を見計らって、ストーキングを始めた可能性も十分に考えられるが……。

 いや、いつからストーカーされているかなんてどうでもいい。


「またこの展開かよ。ストーカーされる身にもなってくれ……」


 立て続けのストーカー被害。

 正直、我慢の限界だった。

 しかしこのままストーカーに屈するわけにはいかない。

 ストーカーに付け入る隙を与えるわけにはいかない。


「どうするかな……」


 最初にストーカーを捕まえようとなった時に協力してくれた、海佳うみか遥香はるかに事情を話して再び協力を仰ぐべきか。

 だが今回の件は前回と違い、正体が全く知らない人の可能性がある。

 前回もそのような可能性はあったが、もう二人を危険な状況に巻き込みたくはない。

 自分のことくらいは自分で解決しないとな。

 よし、一人で立ち向かうしかないか。


「俺一人でもやってみせる……!」


 まずは相手のことを知る必要がある。

 二人に協力してもらった時と同じように、一週間くらいじっくりと相手のことを……。


 一週間後。

 色々と策を講じ作戦実行してみたが、何も成果を得ることはできなかった。

 同時に定期試験が終わり、夏休みに向けてクラスメイトたちは楽しそうに遊ぶ予定を立て始めている。

 このクラスで頭を抱えているのは俺一人だけだ。

 ストーカーのことを考えてたりしたら勉強に集中なんてできるわけがなく、恐らくテストの点数はかなり下がってしまっているだろう。

 その意味でも、頭を抱えているのは俺だけなのかもしれない。

 深くため息をつき机に突っ伏そうとした瞬間、教室の中央で集まっていた海佳と遥香、陽太ようたに大きな声で呼ばれた。

 陽太と遥香の席が中央で近いこともあり、俺たちはよく二人の席に集まっている。


「おうおう、今日も顔死んでるな。勉強のしすぎか?」

「まあな。早く家に帰って寝たい」

「そうですね。藤山くん、早く家に帰って一緒に寝ましょう」


 最近となっては聞き慣れた透き通った声。

 俺の後ろからちょこんと顔を出して、相も変わらずこちらに視線を向けてくるのは桜島さんだ。


「なんであんたがここに来てるの!?」

「藤山くんのいるところに私あり、ですから」

「はぁ!?」


 海佳と桜島さんはいつも喧嘩をしている。


「ちょうどいいじゃん。桜島さんも誘うか」

「陽太くんのえっち」

「なんでだよ!?」


 最近となっては、陽太と遥香が以前より少し仲良くなっているように見える。

 席が近くなり、二人で話すことが増えたからだろうか。

 陽太はわざとらしく咳払いをして、俺と桜島さんに視線を向けてきた。


「もうすぐ夏休みだろ? 早速みんなで海に行こうって話してたんだ」

「海か。いいな」

「私も是非行きたいです」

「よし、決まりだな。じゃあ五人で行こう!」


 この五人では少し心配な面もあるが、十分に楽しめるだろう。

 俺のストーカーの件でも、いい気分転換になるかもしれない。

 ストーカーがついてこなければ。さすがについてこないよね……?

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