第43話 水着選び
後日、
なぜ呼び出されたのかは分からない。誘われた時に何をするのか聞いても、何一つとして教えてくれなかったからだ。
集合場所をショッピングモールに指定されたため、何かしらの買い物であることは間違いないだろうが。
集合時間より十分前に到着し、スマホを弄りながら海佳が来るのを待つ。
するとすぐに、手を振りながらこちらに向かってくる海佳の姿を見つけた。
「あっ!
「おっす……て、なんで
「なんでって、別にいいでしょ。あ、もしかして綾人くんは海佳とデートがしたかったのかな?」
「一言もそんなこと言ってないだろ。ただ買い物するだけなら、いつも遥香いないじゃん」
「綾人くんひどーい」
「綾人さいてー」
二人からはなぜか白い目で見られ、意味がわからずため息をつく。
遥香もいるということは、今日はただの買い物ではないのだろうか。
「……で、なんで俺は今日呼ばれたんだよ」
「今度みんなで海行くでしょ? その水着を新調するの」
「なるほど……って、俺は買わないけど?」
「「はぁ……」」
揃って深くため息をつかれる。
「綾人くんには私たちの水着を選んでもらうんだよ」
「当日のお楽しみでもよかったけど、
海佳と遥香の水着を選ぶ? 俺が?
予想外の事態に頭が追いつかない。
「…………拒否権は?」
「「ない」」
「ははは……」
「「逃がさないよ?」」
戦略的撤退をしようとしたところで、二人で俺を挟むように腕を拘束されてしまう。
すぐ隣にいる二人を交互に見ると、どちらも思わず脅威を感じてしまうほどの笑顔だった。
無言の圧力。
どうやら、諦める他選択肢はないらしい。
逃げ出さないようにと腕を拘束されたまま、女性用水着が売られているお店に強引に連れてこられた。
二人は俺の腕を離さないまま、水着選びを始める。
「ねぇ綾人、この水着どう思う?」
「綾人くん、こっちはどう?」
「わかった……わかったから腕を離してくれないか」
「「逃げない?」」
「もちろんです」
逃げられるわけがないだろう。逃げたら何されるか分からないし。
それから約二十分後。気になったという水着を手に持ち、二人はそれぞれ別の試着室に入っていった。
絶対に逃げるなと釘を刺され、俺は試着室の前にあった椅子に腰を下ろす。
どうしようもなく逃げ出したい気分。
この場において、俺の存在は極めて異端。
店内を見回すが、男は他に誰もいない。
今までの様子を見ていた店員さんはこちらを見てニヤニヤしているが、新しく来た女性のお客さんからの視線が痛い。
なんで男がここにいるの? キモすぎるんですけど。と言われている気がしてならない。
「帰っちゃダメかな……もう帰りたい。今すぐ逃げ出したい」
試着室の中にいる二人には聞こえないように、頭を抱えながら呟く。
するとそんな俺に、誰かが近づいてくる。
「
「え、
「私は今度皆さんと海に行く時に着る水着を買いに来ただけですよ。あ、もしかして私が来るのを予測して待っててくれたんですね?」
「断じて違うよ」
本当に偶然なのか。それとも……。
怖いから考えないようにしよう。
なぜか俺の隣に桜島さんが座り、成り行きで一緒に海佳と遥香の試着を待つ。
しばらくして、まずは遥香が入った試着室のカーテンが開いた。
中からは水色と白色のボーダーのビキニを着た遥香が出てくる。
遥香の水着姿を見るのは二年ぶりだが、あの時よりも大きくなっている気がする。何がとは言わない。
そして相変わらずスタイルが良い。出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる。
「じゃーん! って、あれ? 桜島さんがいる」
「あら、
「そう、だね?」
遥香の声が聞こえたのか、海佳が入っていた隣の試着室のカーテンが勢いよく開いた。
中からは黒色のビキニを着た海佳が出てくる。大人っぽい水着を着てみたかったのだろうか。
色々な要因が邪魔して、全く大人っぽく見えないのは口が裂けても言えない。主に何がとも言えない。
「なんで桜島さんがここにいるの!?」
「偶然ですよ。偶然」
「絶対嘘でしょ!!」
桜島さんは肯定も否定もせず、にっこりと笑顔で返す。
あ、これ絶対偶然じゃないわ。
「部外者の桜島さんは置いといて、綾人! 私の水着可愛い?」
「
「あんたには聞いてないんだけど!?」
顔を合わせると必ず喧嘩に発展する海佳と桜島さん。
海佳はずっと敵意むき出しなのに対して、桜島さんはずっと笑顔だ。すごく怖い。
「海佳はすごく似合ってるし可愛いと思う。だけどあんまり黒の服とか着てないから、黒ってイメージはないんだよな」
「確かに私、黒の服とか持ってないかも。もう少し別の水着試着してみる」
「綾人くん、私は私は?」
「遥香もすごく似合ってると思う。水色ってイメージ強いし。そして何よりありがとうございます」
「ん? なんでお礼?」
いかん……思わずお礼してしまった。あまりにも眼福だったから。
「可愛い?」
「可愛いと思う」
「……そっか。ありがと。じゃあ、この水着にしようかな」
頬を赤く染めながら、嬉しそうに目を細める遥香。
その様子を見て、なぜか体が熱くなっていた気がした。
クラスのマドンナをストーカーから助けたら、なぜか俺がストーカーに遭うようになった 橘奏多 @kanata151015
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