第35話 ストーカーをストーカーしよう作戦

 ストーカーの正体を暴いて捕まえるという危険な作戦に、海佳うみか遥香はるかが協力してくれることになった。

 二人を家まで送り、少し時間を空けてから作戦会議をするべくグループ電話をすることも決まっている。

 予定の時間になり、俺はグループ電話を開始した。

 するとすぐに海佳、遥香が電話に入ってくる。


『もしもーし』

『もしもし、さっきぶり〜』

「二人ともありがとうな、俺のために」

『『いーえー』』


 ここに陽太ようたがいればいつものメンバーだったが、今回の件は陽太に話さないと満場一致で決まっている。

 陽太は部活が忙しいため、巻き込むのはよくないと判断した。よって仲間はずれにはなってしまうが、陽太には黙っておく必要がある。


「家でも言ったけど、ストーカーの存在はまだ不確定なんだ。だからまずはストーカーの存在を確定させたい」

綾人あやとくんは昨日、そのために一人で作戦を実行したけど失敗に終わったんだよね』

「ああ」

『ストーカーがいないならそれに越したことはないけど、もし本当にストーカーがいるなら一筋縄ではいかなそうだね』

『でも綾人、ストーカーの姿は一度も見たことないんでしょ? 接触とかもされたことないんだよね?』

「ないはずだ。変な人に話しかけられたこともない」


 海佳と遥香は二人とも『うーん』と同時に頭を悩ませた。


『やっぱり今の状況を聞く限り、警察に言っても動いてはくれないだろうね』

「だよな。やっぱり俺たちで捕まえるしかないか」

『んっ! 私、いいこと思いついた!』


 突然、海佳が自信満々に声を上げた。

 あまり会話には参加していなかったため、ずっと考えてくれていたのだろうか。


『私たちみたいな素人がやっても上手くいく保証はないけど』


 考えついたという作戦を一から説明される。

 明日から一週間、学校の登下校は俺一人でする。海佳と遥香は俺の後方から離れた場所で周囲の様子を観察し、怪しい人がいないか探す。

 土日は両日俺一人で出かけ、平日と同様に二人が離れた場所から怪しい人を探す。次の土日は両方午前練習らしく、午後なら空いているため午後に決行。


 とてもシンプルな作戦だが、素人ではこれが限界だろう。

 警察が動いてくれれば捕まえることもできるだろうが、俺たちだけではまだ捕まえるのは難しい。

 まずはどんな奴にストーカーされているのかを把握し、ゆっくりと着実に捕まえるのが得策だろう。


『その名も! ストーカーをストーカーしよう作戦!!』


 作戦の内容を話し始めた時から思っていたが。


「なんか楽しそうだな」

『なんか楽しそうだね』


 遥香も同じことを思っていたようで、見事なタイミングで同時に突っ込みが入る。

 ストーカーという存在に対して普通は恐怖心を感じるはずだが、海佳からは一切そのような感情が見受けられない。

 犯人を特定し、捕まえる。そんな非日常に高揚している様子が見受けられた。


『私、これを機に警察のコスプレ買ってみようかな……』

「いや、警察のコスプレしてたら逆に警戒されるだろ」

『外ではしないよ!?』

『それに警察ってよりは探偵のコスプレじゃない? コスプレなんて恥ずかしいからしたことないけど、ちょっと私もしてみたいかも』

「遥香さん、なんで乗り気なんすか」


 まあ、二人がコスプレするって言うなら、少しは見てみたい気持ちはあるけどね。

 海佳と遥香が警察官のコスプレをして、「逮捕しちゃうぞ!」なんて言われた日にはもう……。

 想像するだけで、思わず口角が上がってしまう。

 おっと危ない。俺の変な性癖が露わになるところだった。バレてない……よな?


『今度なんかのコスプレ買って二人でしてみる?』

『え! やりたい! やろやろ!』


 見事に話は脱線し、なぜか二人がコスプレ大会を開く流れになった。

 その大会に俺は呼んでくれ……ないよね。せめて写真だけでも送ってほしいんだけど。


『綾人も来るー?』

「……は!?」


 いいんですか!?

 そんな聖域に俺が立ち入ってもいいんですか!?


『なんてね。さすがに綾人には見せられないよー。恥ずかしいもん』

『もし事故で見られたとしたら、その日の記憶が消えるまで頭を殴り続けるね』

「え、怖い」


 なんならストーカーの存在よりも怖い気がする。

 まじかぁ……見たかったなぁ……。


『ふふっ。綾人今、見たかったなぁって思ってるでしょ』

「なっ……!?」


 なんでバレてるんだ!?


『え、そうなの? 綾人くんのえっちー』

『綾人は変態だからねー。私たちがコスプレした姿を見られた日には確実に襲われちゃうよ』


 酷い言われようだ。

 変態なのは否定はできない。男なんてみんな変態なのだ。超がつくほど。

 同級生。しかもめっちゃ可愛い同級生がコスプレをして、興奮しない男子なんてこの世に一人もいないだろう。

 もちろん俺も例外ではないし、二人のコスプレ姿が見れないと分かって意気消沈しているのは確かだ。


『否定しないんだ。綾人くんのえっちー』

『変態ー』

『えっちー』

『変態ー』


 え、もしかして俺虐められてる?


「とにかく! 明日から作戦決行ってことでいいんだよな?」

『あ、話逸らしたー』

『えっちー変態ー』


 もう嫌だ……このグループ電話から抜けたい……。


「いいんだよね!?」

『『えっちー変態ー』』

「いい加減にしろぉぉぉ!!!」


 斯くして、明日からストーカーの正体を暴くべく『ストーカーをストーカーしよう作戦』をすることが決まった。

 そして残念ながら、二人のコスプレ姿はご高覧できないらしい。

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