クラスのマドンナをストーカーから助けたら、なぜか俺がストーカーに遭うようになった
橘奏多
1.女子高校生を助けたらストーカーに遭うようになった
第1話 女子高生を助けても日常は変わらない(?)
俺――
彼女の名前は、
高校に進学して間もないにもかかわらず大人びた顔立ちをしており、モデル顔負けのスタイル。そしてすらっと腰まで伸びた黒髪と、サファイアのような碧眼が特徴的。さらにはお淑やかで上品で、品行方正な美少女だ。
そんなわけで……
「今日も桜島さんは可愛すぎる……っ!」
「あぁ! 美しい。美しすぎるっ!」
「女神様……」
クラスどころか学年全体。いや、学校全体で人気を博している。
高校に入学してからたった二ヶ月半しか経っていないのに、既にこの状態。卒業する頃にはもう、彼女の人気はこの高校だけでは留まっていないだろう。
「放課後になると他クラスから男が殺到。すごいな、桜島さんは」
だが俺には関係のないことだ。桜島さんとの関係はただのクラスメイトだし、今後も彼女とは関わることはないだろうし。
関われるなら、関わりたいけどね?
だって、めっちゃ可愛いもん。あんな可愛い子と青春できるならしたいですよそりゃあ。
当たり前じゃん。誰だって一度は夢見ることでしょ?
『え〜? 桜島さんもう帰っちゃうの?』
『はい。用事があるので』
『……そっか。うん、じゃあね』
桜島さんが帰るとなり、他クラスから来ていた男たちは一斉に去っていく。
同時に、彼女を取り巻いていたクラスメイトたちも続々と教室から出ていった。
「俺も帰るか」
誰もいなくなった教室を見渡して、席を立つ。
俺は決して、桜島さん目当てで残っていたわけじゃない。ただ帰ってもやることがないから、意味もなく教室に残っていただけだ。いや、本当に。
もしかしたら桜島さんと関われるかも? とか、淡い幻想を抱いて残ってたわけじゃない。う、うそじゃないよ?
「はぁ……」
やっぱダメだったかぁ。
ほんのちょっと落胆しつつも、学校を後にする。
すると学校から少し離れたところで、不審な男を見つけた。全身黒ずくめで、サングラスとマスクを付けて顔を隠している。
不審な男は建物と建物の間に身を隠し、ひょっこりと顔をのぞかせて一点を集中して見ていた。
「まじかよ」
その視線の先には、街中を歩く一人の女子高生がいた。
偶然見つけてしまったが、見過ごすわけにはいかない。
というわけで、少し危ないかもしれないが、俺は不審な男を尾行することにした。一応警察には連絡をしておき、不審な男が動けば気付かれないようにその後ろを追いかける。
約二十分ほど尾行を続けたところで、ヤツは思いもよらない行動に出た。
「っ!? おい!! 待て!!」
ヤツは物陰から飛び出て、一直線に走り出した。道路を横断し、路地裏に入っていく。
逃がすかよ! そう思い追いかけるが、俺も路地裏に入ったところで事件は起きていた。
ヤツの目的は逃げることではなかったのだ。
目の前には気を失っている一人の女子高生と、その女子高生を抱えたヤツの姿があった。
「なっ……!?」
ヤツは彼女を、誘拐しようとしていたのである。
「ちっ、見つかっちまったか」
普通なら焦る状況だが、なぜか焦っている様子はない。加えて余裕そうに、ニヤリと笑みを浮かべていた。
そんなヤツに、一枚の写真が写ったスマホを見せる。
「お前がその子を誘拐しようとした証拠の写真は撮った。観念しろ」
「……観念? 意味のわからない事を言うガキだな。はぁ、ムカつくんだよなぁ。お前みたいなヒーロー気取った格好つけ野郎を見てると反吐が出る」
「勝手に吐いとけ。クズ野郎」
「くくく。大人の恐ろしさってもんを教えてやるよ。クソガキ」
憎たらしい顔で高笑いしながら、こちらにゆっくり近づいてくる。
そして抱えていた彼女を一度下ろし、右ポケットからナイフを取り出して襲いかかってくる。
だが…………。
「動くなっ!!」
直後、後方からそんな言葉が聞こえてきた。
振り返ると、拳銃を持った警察官が二人こちらに向かってくる。
「畜生!」
拳銃を構えた警察を見て、ヤツは諦めて逃走を図った。
しかしその後方からも銃を構えた警察官がやって来たため、この一本道ではどうすることもできない。
すると血迷ったのか、ヤツは叫びながら一人の警察官に向かっていった。結果は言うまでもない。
「クソ……クソクソクソ!」
「早く立て。こっちに来い」
あっさりと投げられ、一瞬にして拘束された。
気を失っていた女子高生は救急車に乗せられ、急いで病院へと向かっていった。
俺はその状況をただ見ていることしかできなかったが、女子高生をなんとか助けられてほっと胸を撫で下ろす。
その直後、後ろから肩をぽんと叩かれた。振り向くと、長身でガタイのいい警察官が立っている。
「通報してくれたのはあなたですよね」
「……あ、はい」
「先程の件で事情聴取したいのですが、少しお時間いただけますか?」
「はい、大丈夫です」
小一時間ほど事情聴取を受け、想像以上にあっさりと解放された。あまり時間はかかっていないはずだが、疲労感が強い。慣れないことをしたせいだろうか。
ヤツの尾行を始めた時、一応警察に連絡しておいてよかった。俺が襲われそうになった時、警察の人たちが来なかったら普通にやばかったし。
「あー、もう早く帰って寝たい」
見知らぬ女子高生を助けたヒーロー。なんて誰にも自慢するつもりは毛頭ないが、人助けできていい気分だ。
今日はきっと、いつもよりも気持ち良く寝ることができるだろう。
それから数日が経ったが、これまでの日常と特に変化はなく、普通にいつも通り学校に向かう。
一応あの後、俺が助けた子は無事であると連絡が来て、本当に良かったと安堵した。ちなみに捕まったヤツは、どうやらその子のストーカーだったらしい。
警察から連絡が来て両親はかなり焦っていたが、自分たちの子どもが人助けをしたと知り、めっちゃ褒めちぎられた。
母さんはその後、上機嫌に鼻歌を歌いながら赤飯炊いてた。婆ちゃんと爺ちゃんなんかに電話すると、「いい子に育ったねぇ……」ってめっちゃ泣いてた。
そんなことがあっても、次の日からは普段と変わらない日常。
良いことなんだか、悪いことなんだか。
だがきっと、幸せなことなのだろう。
今までの日常に変化を求めていたわけではない。普通に毎日を過ごせれば、それでいいのだ…………ん?
「あれ……今」
誰かに見られていたような、見られていなかったような。
「周りには誰もいないし、気のせいだよな?」
事件を間近で見たせいか、敏感になっているのだろうか。
「気のせい……だよな?」
ストーカーに遭ってる? なんて訳の分からないことを考えた自分が馬鹿らしい。
こんな冴えなくてどこにでもいるような男が、一体どこの誰にストーカーされるってんだよ全く。普通に考えれば分かることだろ。
有り得ない有り得ない。きっと気のせいだ。
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