第29話 後輩
土曜日、
当然だが、
「そういえば、サッカー部の試合見に行くのって中学の夏大以来だよねー」
「懐かしいー。あの時は綾人くんも選手だったけどね」
「うんうん!」
俺と海佳、遥香の三人は一緒に試合会場に向かっている。
二人が言うように俺も中学時代はサッカー部の選手として試合に出ていたため、観客として会場に行くのはすごく新鮮だった。
「あ、着いた!」
試合会場に到着し、俺たちは我が校の応援席に座る。するとすぐに、海佳と遥香は飲み物を買いに行った。
なんとか試合前には着けたようで、ちょうど二校がウォーミングアップをしているところ。
相手の高校は県内でもトップクラスの実力であり、全国大会にも何度か出場しているらしい。ウォーミングアップを見ただけでも、強い高校であると分かる。
対して、俺たちの高校はそこまで強くない。よくて関東大会止まりだ。
「……相手の高校、強そうですね」
「ああ……って、え!?」
海佳たちが言ったのかと思ったが、全然違かった。海佳たちは飲み物を買いに行ったきり、まだ戻ってきていない。
その声の持ち主は長い黒髪を靡かせて俺の隣の席に腰を下ろし、こちらに向かって微笑んでくる。
「
「ふふっ、サッカー部の方たちに誘われたんです。活躍するところを是非見てほしいとのことなので、少しでも応援しようと思って来ました」
「なるほど……」
さすがはクラスのマドンナであり、学校中の人気者。
運動部の試合がある時はほぼ確実に、誰かしらから見に来てほしいと声がかかっているに違いない。
「本当は見に来るつもりはなかったんですけどね」
「え、じゃあなんで来たの?」
「気まぐれですよ」
よく分からないが、そういうことらしい。
クラスのみんなに弁明した時に言っていた好きな人が関係しているかと思ったが、全く関係ないと言っていた。なんなら好きな人がいる、というのは嘘だったという。
それからしばらく談笑していると、飲み物を買いに行っていた海佳たちが戻ってきた。
「なんで桜島さんがいるの!?」
「来ちゃいました」
「綾人が呼んだの!?」
「呼んでない。桜島さんもサッカー部の奴らに誘われたんだって」
「「ふーん……」」
海佳と遥香はなぜか、蔑むような目で見つめてくる。
なんでよ!! 俺何も悪いことしてないじゃん!!
「綾人、ちょっと席交換しよ」
「……え、なんで?」
「桜島さんと話したいことがあるから」
現在の座り方は左から桜島さん、俺、海佳、遥香の順番だ。
俺は桜島さんと海佳に挟まれ、あまり思い出したくない学校での出来事を嫌でも思い出してしまう。
「
「なんであんたが断るの!?」
「私には東雲さんと話すことなんて何もないからです」
「私にはあるもん」
「私にはありません」
なんか、隣の人たちが壮絶な戦いを繰り広げているんですけど。
今日サッカー部の試合応援しに来たんだよね? もしかして会場間違えたかな。
対してずっと無言な遥香。こちらを一切見ずに、買ったお茶を飲みながら呑気に自分の世界に入っている。
いや、助けてよ。頼れるの遥香しかいないんだけど。
「……ちょっと俺飲み物買いに行ってくるわ」
「だめ」
「だめです」
必殺、戦略的撤退は両腕を同時に掴まれ不発に終わる。
その後も二人の口論は続き、あっという間に試合の開始時間となった。
試合が始まると、さすがに二人は黙って応援を始めた。
結果は我が校の惨敗に終わった。
前半で一気に二点を取られ、後半で一点を返すも再び二点取られてしまい、1対4で試合終了。
センターフォワードとして出場していた陽太は、悔しそうにグラウンドを眺めていた。
そんな陽太の様子をずっと見ていると、一人の女子が陽太に近づいていった。
後ろ姿から分かるのは肩下まで伸びた黒髪で、俺たちの高校の生徒ではないこと。
「陽太くんって彼女いたっけ?」
「いないと思うけど……」
……ま、まさかあいつ!
俺に隠れて他校の女子と付き合ってたのか!?
いつも二次元の美少女キャラを嫁嫁嫁嫁言ってるくせに! 三次元に興味無いムーブしてたくせに!
なんで陽太に彼女ができて、俺には彼女ができないんだ! 不平等すぎるだろ!
「ん? あれ、でもあの子……」
遠くにいるためよく見えないが、どこかで見たことがあるような気がする。
というわけで陽太に話しかけている女子を凝視していると、急に海佳の顔が隣から出てきた。
「なに? あの子、綾人の知り合いなの?」
「そうなんですか? 藤山くん。随分と女の子の知り合いが多いんですね」
「……」
なんでか知らないけど、隣からの圧が怖い。
女子の知り合いなんて、ここにいる三人だけなはずなんだけど。三人って絶対多い部類に入らないよね。
「……あ、行っちゃった」
「一体誰だったんだろう」
「後で陽太くんに聞いてみよ」
「うん、そうだね」
案外海佳と遥香は冷静そうだ。桜島さんは興味無さそうに見てる。さっきまで俺に対して、すごい怖かったのが嘘みたいだ。
「ちょっと飲み物買ってきたいんだけど……いい?」
一応確認を取る。さっきは逃げさせないと言わんばかりに両腕掴まれたからね。
すると両隣の二人は許してくれ、一時的に解放された。自由って最高。
近くの自動販売機でスポーツドリンクとお茶を一本ずつ買い、早速席に戻ろうと振り返る。早く帰らないとまた怖い目で見られそうだし。
「あっ!」
俺が振り返った瞬間、少し離れた場所にいた女子がそんな声を上げ、こちらに小走りで近づいてきた。
それはつい先程、陽太に話しかけていた肩下まで伸びた黒髪の女子だった。
「綾人先輩! お久しぶりですっ!」
「えっ……?」
先輩? なんで俺の名前を知って……え!?
「もしかして、
「はい! 紅音です!」
俺たちの中学の後輩であり、サッカー部のマネージャーをしていた一つ年下の女子だ。
「どうしてここに……」
「先輩たちに会いたくて来ちゃいました!」
照れたように頬を赤く染めてにっこりと笑顔を見せる紅音は、中学の頃と比べて少し大人びていたように見えた。
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