第10話 私がすべきこと

*海佳視点*



 私――東雲海佳しののめうみかはどうすればいいか分からず、図書室を出るとすぐに学校を後にした。

 綾人あやと桜島さくらじまさんに勉強を教える。それはまだ許せた。

 だけど、あの二人は勉強なんてしていなかった。密着して、イチャイチャしてた。

 勉強を教えるだけなのに、あんなくっつく必要ある? 絶対ないよね。


「ひどい……」


 二人が仲良かったことすら、私は知らなかった。

 今まで一回も話してるところを見たことないのに、いつ仲良くなったのだろう。

 桜島さんと仲良くしてるの、私に知られたくなかったのかな。隠したい理由でもあったのかな。


 わからない。わからない。わからない。わからない。


 小さい頃からずっと一緒にいたのに。何かあれば絶対に私に話してくれたのに。

 綾人の考えていることがわからない。


「ひどいよ……」


 私は同じ言葉を何度も繰り返す。

 二人が私を放ったらかしてイチャついてたシーンが、頭からこびりついて離れない。

 今すぐに記憶から消したいほど辛いのに、何度も何度も何度も何度も思い返してしまう。


 落ち込んで、ずっと俯きながら歩いていたせいか、気がつくといつの間にか家に着いていた。

 靴を脱ぎ、手洗いうがいを済ませると、一直線に自分の部屋に向かう。部屋に着くとバッグを投げ捨て、一切着替えず制服のままベッドにダイブした。


「……最悪」


 何も言わずに帰っちゃったこと、あとで綾人と遥香はるかに謝らないと。

 自分でも思うけど、私って本当に面倒くさい性格してると思う。

 嫌なことがあればすぐ逃げ出してしまう。直さないといけないと。変わらないといけないと分かっていても、小さい頃からずっとこの性格だから変わることができない。

 でも綾人は優しいから、そんな醜い私でも見捨てたりしない。きっと帰ってきたら、直接謝ってくるんだ。絶対に私のところに戻ってくる。

 分かってる。分かってるから、私はいつも嫌なことがあると逃げ出してしまう。


 ――ほんと、私って最低だ。



*???視点*



 学校を出たのは十七時過ぎ。

 本来であれば十六時前に学校が終わったが、中間テストに向けて勉強をしていたためこんな時間である。

 彼――藤山くんの幼馴染、東雲さんが帰ってしまったせいで、彼らも急いで学校を出た。はそんな彼らに気付かれないように、物陰に隠れながらじっくり観察する。


 ――邪魔だなぁ。


 彼の隣を歩く濱崎はまざきくんと汐見しおみさんを見て、ふとそう思う。

 確か、あのメンバーと東雲さんの四人は中学生からの付き合い。東雲さんと彼は小さい頃からの幼馴染。

 その中で最も邪魔なのは、やはり東雲さんだ。


「本当に邪魔」


 でも東雲さんは今、彼の隣にはいない。

 喧嘩中。いや、一方的に東雲さんが彼に怒り、距離を取った。

 普段はずっと近くにいて邪魔でしかなかったが、これはチャンスと見ていいだろう。

 元々、いつまでも私の邪魔をするようなら、私がその関係を壊してあげようと思ってたけどね。

 あとは自然と関係が壊れてくれれば、こちらとしては願ったり叶ったりなんだけど。

 きっとそう上手くは行かない。彼は東雲さんとの関係が壊れることを望まないから。


 どうすれば、彼の気持ちは私に傾くのだろう。

 東雲さんたちのことなんか忘れて、私だけを見て、私のことだけを考えてくれるようにするにはどうすればいいのだろう。

 誰かのことを好きになったことなんてなかったから、今の私に何が足りないのか。何をすればいいのか分からない。

 好きで好きで好きで好きでたまらないのに、この気持ちをどう表現すればいいのか分からない。


「……あ、分かった」


 何も考えなければいいんだ。

 私は今まで、周りのことを考えて、周りに配慮して行動していた。それがいけなかった。その感情が、私の枷となり邪魔をしていた。

 周りのことなんてどうでもいい。彼が私のことだけを見てくれないのなら、あらゆる手を使ってでも私だけを見させればいい。


「ふふっ」


 楽しみにしててね、藤山くん。

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