第18話 席替えの裏

 次の日の朝、海佳うみかと学校に向かっていた。

 今日の海佳は朝から気分が悪そうだ。恐らく、昨日の席替えの件であまり学校に行きたくないのだろう。

 俺が原因……なのだろうが、多分俺に対しては怒っていない。なぜなら昨日と同じで、腕を組まれているからである。離そうと思っても、離すことはできない。

 海佳さん、ちょっと女の子にしては力強くない?


「海佳、着いたぞ」

「うん」


 教室に着くと、海佳は自然と腕から離れていった。

 席の場所は真逆。昨日は席の場所なんてお構いなしでくっついてきたが、今日も同じようにくっつかれるのだろうか。嬉しいような、嬉しくないような。

 ため息をつきながら自分の席に向かおうとすると、既にお隣さんは学校に到着していたようだ。人集りができていて、俺の席が見えない。


「あの隣に行くのかぁ……」


 正直、あまり行きたくない。あまりというか、普通に全く行きたくない。

 俺の席なのに。日当たりがよくて、先生が立つ教卓から遠くて、昼寝するには最適な席なのに。

 休み時間の度に今のように集まられると、昼寝どころではなくなってしまう。せっかくの俺の昼寝ライフが……。

 すると俺が来ていることに気がついたのか、お隣さんである桜島さくらじまさんは集まっていたクラスメイトたちを解散させた。


「おはようございます。藤山ふじやまくん」

「おはよう。桜島さんは朝から人気者だね」

「全然私なんて人気者ではありませんよ。それより席の周りで集まってしまって迷惑でしたよね。ごめんなさい」

「……あー、全然大丈夫だよ。気にしないで」


 集まっていたクラスメイトたちがいなくなり、快適となった自分の席に座る。

 そういえば昨日の放課後は席替えのことですっかり忘れてしまっていたが、桜島さんが昨日の昼休みに言ってた言葉をふと思い出した。


 ――放課後、楽しみにしててください。


 昨日の放課後。

 席替えをして学校を出た後から、桜島さんとは会ってすらいない。席替えの件で色々あったせいか、桜島さんも忘れてしまっていたのだろうか。


「一つ聞きたいことあるんだけど、いいかな?」

「はい。大丈夫ですよ」

「昨日の昼休みに言ってたことって、結局なんだったの?」


 桜島さんは俺が何を言っているのか分からなかったのか、可愛らしくコテンと首を傾げた。

 しかし、数秒も経たずに不気味な笑みを浮かべる。


「……ああ、アレですか。ふふっ、とても面白いものが見れたでしょう?」


 昨日の放課後、桜島さんと関わったのは席替え以降一度もない。

 すなわち、彼女が言った面白いものとは、席替えのことを示している。

 席替えは海佳と桜島さんの言い争いが起こった時間だ。その時間を面白いと思うわけがない。間違いなく、クラスメイト全員が同意見だろう。


「まさか……」


 席替えをするのを事前に知っていた。

 席替え用のくじを作った。

 くじをクラスのみんなに引いてもらうために、一人一人の席を歩いて回った。

 みんなにくじを引かせた。

 しかし、

 最初や最後に引いた様子は見られなかった。ということは、みんなが引いている途中のどこかで引いている。

 結果は俺と桜島さんが隣で、海佳は対角線上の真逆の席。


 くじ引きは確率ゲーム。

 だがもしもこのくじ引きが、すべて彼女によって仕組まれたものだったなら。

 くじである割り箸に作った段階で細工をし、誰がどの席に座るかを見分けられるようにしていたなら。

 それは確率ゲームなどではなく、彼女の独壇場となり100%の絶対的なものとなってしまう。

 いくらなんでも考えすぎだろうか。

 仮に桜島さんが俺の隣の席になったとしても、彼女にとってなんのメリットもない。それになにより、証拠がない。


「桜島さん。これは俺の推測なんだけど……」

「はい」

「桜島さんは――」

「内緒ですよ?」


 俺の言葉を遮るように、桜島さんは唇に人差し指を当てて小悪魔を思わせる笑みを浮かべた。

 直接確認を取ったわけではないが、ほぼ確実に黒と言っていいだろう。


「なんてことを……」

「嫌でしたか?」

「……え?」

「藤山くんは、私の隣の席になるのが嫌でしたか? 東雲しののめさんが隣の席だった方がよかったですか?」

「別に海佳がよかったってわけじゃないけど……」

「なら、よかったです」


 桜島さんは再び不気味な笑みを浮かべる。

 彼女が何を考えているのか。なんでこんなことをしたのか。俺はどれだけ考えても、理解することができなかった。

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