第17話 席替えにて
時間が経つのはあっという間で、
何が起こるのか。何をされるのか。気になって仕方がない。授業なんて全然集中できなかった。
昼休み後も朝と変わらずべったりくっついてくる
「はい、みんな注目ー!」
帰りのSHRが終わって放課後になったはずだが、教卓に立った先生は手を挙げて視線を集めた。
先生の横にはなぜか桜島さんが立っており、手にはたくさんの割り箸が入ったアルミ缶を持っている。
これから何が行われるのか、クラスのみんなは疑問に思いつつも先生の言葉を待つ。
「今日は席替えをしたいと思いまーす!」
「「「うぉぉぉおおお!!!」」」
席替えか。
今の席は
だが席替えをやるとなった以上、くじ引きだろうが全力でいい席を狙いに行く。運だけど。
できれば後方の席で、仲のいい人が周りに一人でもいれば勝ちだ。
「桜島さんが席替え用のくじを作ってきてくれたから、それでするわよー」
桜島さんはこのクラスの学級委員だ。
学級委員だからこそ、先生から事前に席替えをするからくじを作ってほしいと頼まれたらしい。
先生の口から、席替えをするにあたっての説明が始まった。
要約すると、席の場所を番号付けして、番号の書かれた割り箸を俺たちが順番に引く。引いた割り箸に書かれてある番号と同じ番号の席に移動する。ということだ。
どうやら、わざわざ桜島さんが席を回ってくれるらしい。
教室の端にある席に座っている人から順々と割り箸を引いていく。既に黒板には番号が書かれてあるため、割り箸を引いた人たちはこれからの自分の席に一喜一憂していた。
桜島さんはこのクラスには仲のいい人が多く、席を回る度に話している姿が見られる。俺も色々な人と仲良くなりたいものだ。
それから少し待つと、俺の出番が回ってきた。
「次は
「おう」
くじ引きは確率ゲームだ。すべてはその時の運次第。
俺は右下隅にある一本を手に取った。直後、目の前でこちらを見ていた桜島さんが少し笑みを見せた気がした。
全員が割り箸を引き終わり、荷物を持って自分の新しい席へ移動を始める。
俺はなんと、一番後ろの窓側の席になった。きっと日頃の行いがいいからだろう。ありがとう、神様。
しかし残念なことに、陽太とは離れてしまった。陽太は教室の中央あたりの席に座っている。
「周りが知らない人しかいなかったらちょっときついな」
海佳は廊下側の一番前の席から、不服そうにこちらを睨めつけていた。一応手を振ってみるが、返してはくれない。まあ、確かに一番前の席は嫌だよな。
それよりも、俺の周りマジで知らない人しかいないんだが。次々と席は埋まり、俺の前の席と右斜め前の席は既に埋まっている。もちろん一度も喋ったことのない人だ。
あとは右隣の席だが、こちらはまだ埋まっていない。頼むから、一度は話したことのある人であってほしい。
「……」
しばらく時間が経つと、ほぼすべての席が埋まった。ほぼすべてというか、俺の右隣の席だけが埋まっていない。
え、なんで? いじめ? これいじめですか?
と思ったところで、ある違和感に気づいた。
桜島さんがどこにもいない。
教室中を見回すが、どこにも彼女の姿はなかった。
席が埋まっていないのは俺の右隣の席だけ。
すなわち……。
「お待たせしました」
透き通った声でそう言った桜島さんは、俺の右隣の席に腰を下ろした。
右手で頬杖をつき、微笑みながらこちらを見つめてくる。
その隣で桜島さんを見ていた男子はガッツポーズを決めたが、彼女の目には全く映っていない。
「よかったです。藤山くんの隣になれて」
「俺もよかったよ。桜島さんが近くで」
「ふふっ、ありがとうございます」
話せる人が近くにいて、という意味だったが、ちゃんと伝わっているか不安だ。
やがて桜島さんは視線を前に戻すと、誰かを探し始めた。廊下側の前方を見て、ふふっと再び笑みを浮かべる。
「……かわいそうに」
そう言葉にした桜島さんは、廊下側の前方に向けて手を振った。その先には、こちらをじっと見つめる海佳の姿がある。
海佳だけでなく、対角線上にいる多数の男子たちが桜島さんの振る手に気づいた。
「あれ俺に向けて手振ってるよな!?」とか「いや、俺だろ!?」と混乱を引き起こしてしまっているが、桜島さんは気にしない。
海佳に。海佳ただ一人に、その手を振っているから。
「……っ!」
海佳は何かを感じ取ったのか、立ち上がってこちらに近づいてきた。
桜島さんの席まで来たところで、歩みを止める。
「桜島さん」
「あら、
「席、変わってくれない?」
淡々と告げる。
周りにいたみんなは海佳の言葉に驚き、一斉に海佳たちの方に振り向いた。
「どうしてですか? 私とあなたが席を変える理由があるとは思えませんが」
「あるよ。邪魔だから」
「……はい? 邪魔?」
「うん。私と
……え、今俺巻き込まれた? 絶対巻き込まれないようにしようと思って、影を隠したつもりだったんだけど。
「邪魔、ですか。酷い言われようですね」
「だって実際そうだし。ね? 綾人」
俺を巻き込まないで。
「東雲さんの言い分は分かりました。ですが、何を言われようと私はこの席を譲るつもりはありません」
「ふーん? なんで?」
いつの間にか、クラスメイト全員が二人の論争に注目している。
何かあったのかと、先生も慌てふためいていた。いや、止めに来てよ先生。何やってるんですか。俺は関わりたくないですよ。こっち見ないでください。
「理由が自己中心的すぎるからです。私の目が悪かったりしたら話は別ですが、あなたの一方的な理由で席を交換なんてするはずがありません」
「……っ」
桜島さんの言う通りだった。
海佳の言い分は、さすがに自己中心的すぎる。
「藤山くんはどう思いますか?」
「海佳。今回は諦めろ」
「綾人……」
あまり海佳を悲しませたくはなかったが、今回ばかりは諦めろと言うしかなかった。
俺の意見を聞いた海佳は悲しげな表情を浮かべ、俯きながら自分の席に戻っていった。
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