第26話 久しぶり
放課後になると、学校の男子はほとんどが体調不良を訴えて早退していて少なくなっていた。
原因は、
いくらなんでも桜島さんのこと好きな人多すぎるだろ。さすがはクラスのマドンナ。いや、もう学校のマドンナでよくない?
「男子の数、結構減っちゃいましたね」
「ほんとだね。このクラス、二十人いた男子がもう五人しかいないし」
「一体何があったんでしょう。食中毒とか?」
「どうだろ……」
食中毒の線も有り得るが、理由は絶対別にある。
桜島さんは自分が原因であることを分かっていないのか、首をこてんと傾げている。
キミが原因だよ、なんてもちろん言えるわけがない。
学校に残っていてもやることはない。家に帰ろうと思い、席を立ち上がった。
「
「うん、また明日」
隣に座っていた桜島さんに挨拶を済ませ、教室を出る。
いつも通り一人で下駄箱に向かうと、ちょうど
「おー、二人ともこれから部活か?」
「休み!」
「本当は部活だったんだけど、顧問の先生に急遽用事ができちゃったみたいで練習がなくなったの」
「それはよかったな」
「「うん!」」
顔を合わせてから、ずっと二人は上機嫌な様子だ。
部活が嫌いというわけではないらしいが、やはり元々あった練習が突然なくなると誰だって嬉しいものである。
陽太は相変わらず部活らしく、放課後になるとすぐに走ってグラウンドに向かっていった。
「じゃあ、二人ともこれから帰りか?」
「そそ。一緒に帰ろうよ」
「おう」
久しぶりに三人でゆっくりと家に帰る。
テスト前は陽太を含めた四人で勉強してから帰っていたし、テスト後は二人は部活に行ってしまう。
よって、このようにゆっくりとみんなで帰るのは本当に久しぶりだった。なんか一人いないけど。
「久しぶりに三人で遊ばない? 私たちが部活ない日なんてあまりないし」
「いいね!」
「どこ行く?」
「うーん、
「別にいいけど、家に来たって面白いものなんて何もないぞ」
「いいのいいの。普通に座りながらゆっくり話そうよ」
座りながらゆっくり話すなら、俺の家よりも軽食と飲み物が出てくるカフェの方がいいと思うんだけど。
「綾人くんの家か〜。すごい久しぶりかも」
「あれ、遥香って家入ったことあったっけ?」
「一回だけあるよ。中学生の頃に」
全然記憶にない。
海佳は知らなかったのか、すごく驚いている。
「まあ、ほんの少しだけどね。綾人くんの忘れ物を届けたらお母さんに上がってって! って言われちゃって」
「あー、家の母さん結構強引なとこあるからな。全然知らなかった」
「遥香、私の知らないうちに綾人のお母さんと仲良くなってたんだ……ふーん」
「別に仲良くなったわけではないと思うけど……」
「ふーん」
海佳はジト目で遥香を見つめ、「ふーん」と何度も繰り返す。
なんで怒ってるの。あんた、ほぼ毎日俺の家来てるでしょ。
それからしばらく歩き、俺の家に到着した。
久しぶりに来たと言う遥香に対して、私週六くらいで来てる! と謎のマウントを取る海佳。
いや、いくらなんでも週六は来すぎだろ。
二人を部屋に通し適当に座るように促すと、いつも通り海佳は俺のベッドにダイブした。遥香は俺の部屋を見回してから、ベッドに寄りかかるように地面に座る。
「なんか、すごい綾人くんの部屋って感じ」
「そりゃ俺の部屋だからな」
と言っても、あまり特徴のない部屋だ。
ベッドや本棚、テレビ等の必要最低限の家具しか置いていない。海佳がほぼ毎日のように来るためちゃんと片付けてはいるが、シンプルでかなり質素な空間になっている。
……ん? まさか遥香のやつ、俺のこと地味な奴だってディスってる?
「本当は私以外の女の子入れたくないけど、遥香なら許す」
「お前は俺のなんなんだ。ここ俺の部屋なんだけど」
「通い妻?」
「なんでそうなる!?」
「実際そうだし」
「まあ、週六で来てるんだったら実質そうだね」
海佳は「えっへん!」と胸を張った。
大体遥香は海佳の味方につくことが多い。二対一で、完全なる数的不利。俺にはどうすることもできない。
認めはしないが、もう放っておこう。どうせ何を言ったって、彼女たちには通じないのだから。
俺の家に来てから約四時間が経ち、外はあっという間に暗くなっていた。
テレビをつけながら談笑していると、いつの間にかこんな時間になっていたのだ。
俺は海佳と遥香を家まで送ることになり、まずは遥香の家に行こうと決める。
遥香を家まで送るのには海佳も付いてきた。家はあまり遠くないためすぐに送り終わり、次は海佳の番となる。
「今日、楽しかったな……」
「そうだな。次は陽太も合わせて四人で遊びたいな」
「だね〜」
二人で並んで、街灯のついた夜道を歩く。
やがて俺の家を通り過ぎ、海佳の家に向かおうとするが……。
「ねぇ、綾人」
「ん?」
海佳が俺の家の前で立ち止まったため、俺も海佳の方を向いて立ち止まった。
だが、いくら返答を待っても海佳からの返答はない。
「海佳? どうした?」
「綾人……私……」
街灯に照らされた彼女の顔を見ようとするが、俯いていてどんな顔をしているか分からなかった。
そして、上目遣いでこちらを見てくる。
「私、まだ帰りたくない」
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