第20話 デート開始

 テストはすべて返され、学年順位やクラス内順位が発表された。学年全体で320人。1クラス40人。

 結果は俺は学年7位、クラス2位だった。中学時代では考えられない順位で、学年順位でも一桁になったのは初めてだ。

 海佳うみかは学年216位、クラス28位。遥香はるかは学年88位、クラス10位。陽太ようたはどちらも最下位だった。

 遥香はかなり健闘したが、海佳や陽太は少し残念な結果となってしまった。

 そして予想外だったのは、学年1位がすぐ近くにいたことだ。学年1位は俺のお隣さん、桜島さくらじまさんだった。約40点差をつけられて、圧倒的な敗北を喫した。

 俺に聞いてきた数学の問題、絶対元々分かっていたのでは? とどうしても疑ってしまう。


 そんな桜島さんと俺は今日、賭けで決まったデートをするべく水族館に行くことになった。

 集合時間まであと三十分。桜島さんを待たせないように、俺は早めに集合場所に到着していた。


「少し緊張するな……」


 女子と二人きりで遊ぶというのは、今回が初めてなわけではない。海佳や遥香と何回もあるし、中学の頃は他の子とも何回か遊んだことがある。

 だから女子と二人きりで遊ぶ、というのにはあまり緊張していない。桜島さんと二人きり、というのに少し緊張している。


「短い間に色々あったからなぁ……」


 ストーカーから助け、少しずつ話すようになり、仲良くなって…………。

 まあ、少し怖いところもあるが、仲良くなれて本当によかったと思う。周りからの視線は痛いけど。

 桜島さんをストーカーから助けてから、実はまだ二ヶ月も経っていない。そう聞くとすごく短く感じるが、体感ではもう一年は経っているのではないかと疑うほどに長かった。


「懐かしいなぁ」


 まだ二ヶ月しか経ってないけど。

 桜島さんとの日々を思い返しているとあっという間に時間は過ぎ、集合時間まであと約十分になっていた。

 スマホで時間を潰していると、誰かがこちらに小走りで近づいてくる。きっと桜島さんなのだが、誰なのか分からないほどにいつもと印象が違う様子だった。


「お、お待たせしました! 待ちましたか?」

「全然。今来たとこだから大丈夫だ……よ」


 改めて近くで見てみると、さすがとしか言いようがなかった。クラスのマドンナと言われ、学校全体の男が注目するのも納得できる。

 桜島さんの今日の服装は、一言で言えば清楚系。ハイウエストでベルト付きのベージュのワンピースを着ていて、高校生とは思えないほどの色気が溢れ出ていた。

 いつも制服姿しか見ていなかったせいか新鮮で、とても可愛いというのが素直な感想だった。


「よかったです。じゃあ、行きましょうか」

「お、おう」


 さっきは少しと言ったが、めっちゃ緊張している。

 微笑みを見ただけでも、なぜか心臓が跳ね上がってしまう。いつもはそんなことないのに。

 こんな姿を学校の男共が見たら、死ぬだろ。確実に。俺も死にそうだもん。可愛さの暴力すぎる。


「桜島さん。その服……」

「実は藤山ふじやまくんとデートするって決まってから、急いで新調したものなんです……似合ってませんか?」

「いや、めちゃくちゃ似合ってると思う。すごく可愛いし、俺は好きだよ」

「すすす好き!? ですか!? ほんとですか!?」


 りんごのように真っ赤になった頬を両手で包み、明らかな動揺を見せる。普段はあまり動揺を見せないため、すごく新鮮である。

 しかし、そんなにも動揺させてしまうことを言ってしまったのだろうか。普通に似合ってるってことを伝えたかっただけなんだけど。


「うん。本当にすごく似合ってると思う」

「う、嬉しいです……」


 喜んでもらえたならよかった。

 そしてその後は他愛もない話で盛り上がりながら、水族館へ二人で向かったのだった。

 水族館に到着すると、休日だからかすごく混んでいた。入場待機列ができていて、入るまで少し時間がかかりそうだ。


「どうする? 並ぶ?」

「予定より早く着きましたし、水族館に入る前に少し休憩していきませんか?」

「そうだね。近くにスタベがあるから、そこで休憩しようか」


 この水族館は前に海佳とも来たことがある。さらに今日のために事前によく調べてきたため、周辺についてはよく知っている。

 対して、桜島さんはあまりこの辺について詳しくないらしい。なんとか無事にエスコートできそうだ。


 俺たちは水族館のすぐ近くにあるスタベに向かった。

 その後歩いて一分もかからず到着し、俺は抹茶クリームのフラペチーノを、桜島さんはキャラメルのフラペチーノをそれぞれ注文した。


「私、スタベに入ったの初めてです」

「そうなの?」

「はい。キラキラしすぎてるので少し入りづらくて」


 このお店の中で、あなたが一番キラキラしてますけど。

 ほら、周り見てよ。他のお客さんだけじゃなくて、店員さんまでもがこっち見てるよ。こっちというか、主に桜島さんを。


「分かる。でも一回入ってみたら変わるよ。美味しすぎて、リピート確定だから」

「ほんとですか?」


 桜島さんはゆっくりとストローを咥え、キャラメルのフラペチーノを飲んだ。

 きっとすごく美味しかったのだろう。目を丸くして、「ん! ん!」と語彙力を無くして口を押さえている。


「すごく美味しいです!」

「でしょ?」

「はい! 藤山くんに私の初めてを奪われてしまいました……」

「やめて!? 誤解生む表現やめて!? ただ一緒にスタベに来ただけでしょ!?」

「ふふっ、焦りすぎですよ」


 そう言って桜島さんはなぜか、持っていたキャラメルのフラペチーノをこちらに渡してきた。

 何がしたいのか分からず、硬直してしまう。


「私、抹茶の方も飲んでみたいです」

「あー、なるほど……」


 俺たちは飲んでいたフラペチーノを交換する。

 でもこれ、間接キスになっちゃうよな……。

 桜島さん、分かってないのかな?


「桜島さん。すごく言いづらいんだけどさ」

「はい?」

「間接的にさ、その……」

「……あ」


 桜島さんも気づいたようだ。


「大丈夫ですよ。お構いなく」

「……え?」


 間接キスだよ? 恋人でもない男女でだよ?

 ……俺、もしかして男だと思われてない?

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