第28話 エンバーの危険性
ラトアが語った、ジョエルの周りの不穏な動き――その原因は、ジョエルに次期当主の座を奪われるのではないかと不安がっている義理の弟エンバーである可能性が高かった。
「あいつ……何かやらかさなきゃいいけど……」
「そんなに心配なのか?」
「当たり前だ! 俺にとってあいつは今もかけがえのない相棒だからな」
そう力説すると、ラトアはキョトンと目を丸くしている。
「な、なんだよ」
「いや、おまえがそこまでジョエル・ログナスを想っているとは予想外だった。よほど強い絆で結ばれているようだな」
「あいつが俺を変えてくれたようなもんさ」
追放され、半ば自暴自棄になっていた俺を救ってくれたジョエル。
俺が願うのはあいつの幸せだけだ。
「なるほど。おまえが変わった理由として、彼の――ジョエル・ログナスの存在は非常に大きいようだな」
ゆっくりとこちらへ歩み寄りながらラトアは語る。
「俺に護衛役を頼みに来たのだろう?」
「なっ!? ど、どうして!?」
「話の流れで大体読める。――いいぞ」
「へっ?」
突然の事態に、俺は一瞬思考がフリーズする。
だが、ラトアはそんなのお構いなしとばかりに続けた。
「ジョエル・ログナスの護衛役を引き受ける」
「えぇっ!? いいのか!?」
あまりにもあっさりとした決断に、俺は思わず聞き返してしまった。
「頼んできたのはそっちだろう」
「いや、それはそうなんだけど……まさかここまですんなりOKがもらえるなんて想像もしていなかったよ」
「おまえに興味が湧いたからな」
「……えっ?」
な、なんだ?
急に真顔でこっちをジッと見つめてきて……あと、ちょっとずつにじり寄ってくると怖いからやめてほしいんだが?
「ふっ、そう怯えた顔をするな。別にとって食おうというわけじゃないんだ」
「べ、別に怯えていたわけじゃ……」
「それより、そろそろ生徒会の会議が終わる頃じゃないか?」
「っと、そうだな」
ともかく、強力な味方が増えたのには変わらない。
俺は心強い気持ちで生徒会室へとラトアを連れて戻ってくる。
すると、室内からはまだ話し合う声が。
「随分と熱心に議論を交わしているなぁ」
「どんな議題なんだ?」
「ジョエルの話だと、学園祭の出し物についてらしい」
俺とラトアのふたりが生徒会室の前でそんな会話を繰り広げていると、
「あれ? 珍しい組み合わせだね」
そこにやってきたのは一年先輩の生徒会長だった。
――って、あれ?
なんで生徒会長がここに?
「か、会長!? どうしてここに!?」
「いや、ちょっと課題で必要な魔法薬を取りに行った帰りだけど?」
「会議はいいのですか?」
「会議?」
ラトアが尋ねると、会長は首を傾げた。
「今日の会議は先生が急な出張で留守になっちゃったから明後日にすると伝えておいたはずなんだけど……」
「えっ!? 俺もジョエルもそんな話は聞いていませんよ!?」
「おかしいなぁ……エンバーが伝えておくと言ってくれたんだが」
「エンバーが!?」
「しかし、会議室からは話し声が――」
不思議そうに生徒会室を見つめるラトアの前に立った俺は、そのままドアを蹴破って中へと入る。途端に、さっきまで賑やかだった話し声が嘘のように消え去った。
それに――
「誰もいない……?」
これも魔法の類か?
いずれにせよ、まずい事態になってしまった。
俺たちはエンバーに出し抜かれたんだ!
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