第41話 VSエンバー

 ついにエンバーと直接対決を迎える。

 相手は剣術ではなく魔法をメインに戦うようなので、こちらが不利と言わざるを得ない。

 付け入る隙があるとするなら……ヤツには実戦経験がほとんどない。

 教科書通りの戦い方はできても、すべての相手が本に書いている通りの行動をするとは限らないのだ。そうなった時にどう対処するのかは何より経験がものを言う。


 エンバーにはその経験がない。 

 俺が勝つにはそこを突くしかなかった。


「剣を振り回すしか能のない平民が!」


 魔法の杖に魔力を込めると、やがてそれは凄まじい威力の風へと変わる。

 最初の攻撃は風魔法だ。


「ぐっ!?」


 なんとか踏みとどまろうとするが――このままではダメだ。腰を落として吹き飛ばされないようにしつつ、俺は意識を集中させる。


 すると、何かがこちらへ接近してくる気配を感じた。

 直後、俺は慌てて左へと前転。

 猛烈な突風が通過したかと思うと、俺の背後にあった木々がスパッとハサミで紙切れを切るかのごとく切断されていった。

 なんて威力だ……まともに食らった間違いなく死ぬぞ。

 もうあいつはなりふり構っていられないようで、確実にこちらを消し去るつもりで襲いかかってくる。


「ほぉ、うまくよけたな。しかし、それがいつまで続くか見ものだ」


 仕留めそこなったエンバーだが、こちらが必死になって魔法攻撃をよけていることに気をよくしたのか、上機嫌のまま風魔法を連発。

 俺はなんとかひとつひとつかわし、機を待った。

 今、ヤツは勝利を確信している。

 ここですぐに決着をつけてしまっては面白くないからと、俺をいたぶって楽しんでいるのだ。

 お世辞にもいい趣味とは言えないが、逆転の目を狙うならこれ以上ない状況だ。


 ――だが、まともに立ち向かっても風魔法でぶった切られる。

 ヤツの油断を誘いつつ、確実に戦力を削ぐ戦いをしなければならない。


 だとすると、標的にするなら……魔法を繰りだしてくるあの杖だ。

 あれがなければエンバーは魔法を使えなくなる。

 そうなれば、あのリザードマンも消滅するはずだ。


「ははははっ! 踊れ踊れぇ!」


 なおも風魔法を繰りだし続けるエンバー。

 俺はそれを回避しつつ、かつて時計塔だった場所――今では瓦礫が散乱している場所へと逃げ込んだ。


「すばしっこいヤツめ……だが、追いかけっこもここまでだ」


 あまり時間をかけるわけにもいかないので、なんとかここで勝負をかけたい。

 俺は物陰に隠れつつ、エンバーの動きをチェック。

 なんとかして魔法の杖を破壊できるよう策を練った。

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