第31話 エンバーの思惑
「エンバー! どういうつもりだ!」
「口を慎みたまえ、平民風情が」
ひどく歪んだ形相でそう吐き捨てるエンバー。
俺なんてはなから眼中にないって態度だな。
その証拠に、ヤツの視線は俺のすぐ隣にいるラトアへと向けられていた。
「解せないな。そっちの平民野郎がジョエルを助けるに来るというのは理解できるが……なぜ君のような優秀な生徒がそちら側についているんだ――ラトア」
エンバーにとって最大の誤算と言えるラトアの存在だろう。
学園でもトップの実力者として知られる彼が、縁もゆかりもなかったはずのジョエルを助けるため俺と行動をともにしている。見方によっては不可解ともとれる展開だな。
「できれば君には僕らの方についてもらいたかったが……今からでもどうだ? 報酬は弾ませて――」
「遠慮しておこう」
食い気味に拒否するラトア。
そんな一連の言動が面白くて思わず噴きだしてしまうが、これがエンバーの逆鱗に触れたようだ。
「貴様……平民の分際で貴族であるこの僕を笑ったな!?」
眼光鋭く怒鳴り散らすエンバー。
平民とか貴族とか、身分に執着しているようだけど……今回の件が明るみになればそういった立場もすべて失いかねない。それを理解したうえで言っているのか?
「随分と自分の地位が誇らしいようだが、自分のしでかしたことを分かっているのか?」
「ママの権力でいくらでも潰せるさ」
「ママ」と来たか……こりゃ何を言っても通じそうにないな。
説得をあきらめ、どうやってヤツを捕まえようか考えていたら、
「大体、そいつはログナス家に相応しくない血が混じっている。汚らわしい血がな。ログナス家の未来を思えば消えてなくなった方がいいのさ」
「「…………」」
今度はエンバーが俺たちの逆鱗に触れる。
「ここまでのやりとりで確信した。――やはり、俺はジョエル・ログナスの護衛役に回ってよかったよ」
「やれやれ……本当に残念だよ。君はもっと利口かと思っていたのに」
「残念なのはてめぇのおめでたい脳みそだろうが!」
ついに俺の怒りが爆発する。
平民である俺に「てめぇ」呼ばわりされてさらに怒り狂うエンバーであったが、不意にヤツの視線が二階へと向けられた。
なんだ?
上に何かあるのか?
「どうした? 何を気にしている?」
ラトアも気になったようで問いかけるが、エンバーはニタニタと下卑た笑みを浮かべているだけ。しばらくしてようやく口を開いた。
「これでおまえたちも終わりだ」
「? どういう意味だ?」
「言った通りさ。――終わりなんだよ!」
エンバーが叫んだ直後、突然激しい横揺れが俺たちを襲う。
「な、なんだ!?」
「地震!?」
いきなりの事態に動揺する俺たち。
一体何が起きようとしているんだ!?
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