第30話 強行突破
学園の時計塔は創立時から存在している由緒ある建築物。
最近は老朽化を理由に生徒たちへ立ち入りを禁止ていたそうだが、幽霊騒動なんかもあったらしく、今では生徒どころか教職員でさえ用がない限り立ち入らない場所となっている。
つまり、学園内という限られた空間の中で悪事を働くにはもってこいの場所であり、おまけに職員を味方につけて見張り役を押しつけられる環境にあるとしたら利用しない手はないだろう。
俺たちが時計塔の入口付近までやってくると、扉が半開きの状態となっていた。
それはあきらかに誰かが入った形跡だ。
「どうやら正解だったみたいだな、ラトア」
「うむ。早速中へ入ろう」
「お、おいおい、もう少し警戒した方がいいんじゃないか?」
「近辺に強い気配を感じない。中にはジョエルとエンバーのふたりだけだ」
「そこまで分かるのかよ!?」
さすがは主人公補正。
噛ませ役の俺とは生まれ持ったポテンシャルが違う。
けど、味方となった今はそれがとても頼もしく思える。
ラトアの言葉を信じて時計塔の中へ入ると、真っ先に飛び込んできたのは椅子に縛りつけられているジョエルだった。
「ジョエル!?」
俺が叫んでも、意識を失っているようでピクリとも動かない。
もしかしたら――という最悪のケースが脳裏をよぎる。
慌てて駆け寄り、顔を近づけてみえると……ちゃんと呼吸をしていたし、目立った外傷もない。眠らされているだけのようだ。
「よ、よかった……」
安堵する俺だが、ラトアからするとこの状況は不自然に映るらしく、辺りをキョロキョロと見回している。
「どうかしたのか?」
「いや……なぜわざわざジョエルを縛って放置しておいたのか気になってな」
「なぜって、あとで拷問でもしようと考えていたとか?」
「俺もその線が濃厚だと思っていたが……どうにも周囲の様子がおかしい」
「えっ?」
ジョエルのことが心配でまったく気がつかなかったけど、ラトアの言うように嫌な気配を感じる。
――と、その時、
「やはり来たか」
どこからともなく聞こえてくる声に反応し、俺とラトアは振り返った。
そこには時計塔の二階へ上がる階段があるのだが、その踊り場に何者かが立っている。
「っ!? エンバー!?」
姿を現したのはジョエル誘拐の首謀者と思われるエンバーだった。
不敵な笑みを浮かべつつ、こちらを見下すような眼差しを送っているが……ヤツは何をしようとしているんだ?
※次回から12時の1話投稿になります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます