第29話 ジョエルを捜せ

 俺がラトアを勧誘している間にエンバーがジョエルと接触。

 魔法を使って会議をしているように装い、生徒会室へ入ってきたジョエルをさらっていった可能性が極めて高い。

 実際、ジョエルは現在行方不明――くそっ!

 完全に俺の落ち度だ。


 すぐにリックへこの事態を学園の外にいるイスナーたちへ伝えるよう送りだしてから、俺とラトアは学園内を捜索。教職員たちにも協力を仰ごうかと思ったが、例の試験のこともあるので迂闊に情報を漏らせないとラトアに止められる。


 そうだった。

 学園の中にはエンバーの母親であるグラチェルとつながりの深い者たちもいる。もしかしたら今回の件にもかかわっている可能性があった。

 この非常時になってそれを痛感する。

 さらに困ったのはこの学園の広大さだった。


 とにかくめちゃくちゃデカい。

 学生の立場からすると嬉しいのかもしれないが、いざここから人を捜そうとなったらこれほど面倒な要素はない。


「手がかりもないし……どこから捜せばいいんだ……」


 早くしなければジョエルが危ない。

 焦れば焦るほど、心が浮ついてしっかりとした判断ができない状況へと追い込まれていく。


 ――と、その時、


「こっちだ、ハイン」


 一緒に行動しているラトアが突然俺の腕を引っ張って走りだす。


「ど、どうしたっていうんだよ、ラトア!?」

「エンバーからすれば、極力学生たちの目にはつきたくないと考えるはず。だから、この学園内でもっとも学生が立ち寄りそうにない場所に連れ込んだ可能性が高い」

「それはそうかもしれないが……それってどこなんだよ」

「あそこだ」


 ラトアが指さしたその場所は――巨大な時計塔だった。

 確か、授業の開始と終了を告げる鐘が鳴るのもあそこだったな。


「一般生徒の立ち入りが禁止されていて、尚且つあそこには幽霊がでるという噂がある。多くの学生は気味悪がって近寄らないんだ」

「なるほど……隠れて悪事を働くにはもってこいの場所ってわけか」


 だが、いくらそんな場所であってもさすがにそのままにはしておかないだろうな。

 案の定、時計塔へとつながる道には数人の学園関係者が。


「き、君たち、ここで何をしている!?」

「あなた方こそ何を?」


 俺が尋ねると、職員のひとりが慌てた口調で説明をする。


「と、時計塔の修復だ」

「……嘘はやめてもらおうか」


 そうラトアが言い放った直後――彼は俺の目の前から姿を消す。

 一体どこに行ったのかと周囲を見回していたら、職員たちの後ろに移動していた。いつの間に、と声をかけようとした直後、バタバタと職員たちが白目をむいて倒れていく。


「安心しろ。気絶しているだけだ」

「それはそうなんだろうけど……」


 行動が早いというかなんというか。

 まあ、ラトアみたいに人の本質を見抜けるような能力のない俺でも、この職員たちが何かを隠しているのは明白だったし、おかげで時計塔の怪しさが倍増した。


「行こう、ラトア」

「あぁ」


 急遽加わった頼もしい仲間を引き連れて時計塔へと急いだ。

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