第39話 覚醒イベント

 原作でもあったラトアの覚醒イベント。

 本来ならもっと先なのだが、まさかここでそれが起きてしまうとは。


 確か、原作ではヒロインを助けようとして覚醒するはずが……俺とジョエルを助けるために覚醒したっていうのか。


「今ならやれる……」


 静かに自信を見せるラトア。

 離れていても肌がビリビリと痺れるような感覚が……これが覚醒した神剣の力なのか。


「くらえ」


 神剣を手にしたラトアが跳躍。

 リザードマンめがけてそれを振った直後――巨大な右腕が宙を舞った。

 ラトアの放った強力な一撃が、リザードマンのいかつい腕をぶった切ったのだ。


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」


 痛みに絶叫するリザードマン。

 この流れなら勝てる――そう思った直後、ラトアに異変が。


「うっ……」


 華麗に着地を決めたと思ったのだが、急に膝から崩れ落ちた。


「「ラ、ラトア!?」」


 俺とジョエルは大急ぎでラトアのもとへ。

 外傷はないものの、顔は青ざめて呼吸も乱れている。さらに、本人は意識がないようで、こちらの呼びかけに応答しない。


「っ! 急激に魔力を消耗しすぎたんだ……」


 ジョエルはすぐにラトアが倒れた理由を分析。

 確かに、あれはかなり強力な魔力だったが……まさか気を失ってしまうほど激しいものだったなんて。


 原作ではそんなことはなかったが、思い返してみればあんな風に神剣を強化させて戦うのはまだ先の話。俺たちのために覚醒をしたのは間違いないのだが、それをやるにはまだ鍛錬が足りなかったのだ。


「ラトア……あとは俺たちに任せておけ」


 急遽ジョエルが魔力を供給し、顔色はよくなってきたけどまだ意識は戻らない。

 最大戦力が思わぬ形で離脱したけど、リザードマンは片腕を失くして大幅に戦力が落ちている。あとは俺ひとりでなんとかしなくちゃ。


「いくぞ!」


 剣を構えてリザードマンと対峙する。

 ――と、ここまで沈黙を貫いていたエンバーが口を開いた。


「さすがにここまでくると滑稽すぎて涙が出てくるよ」

「な、何っ!?」


 慌てるどころか、ヤツの余裕な態度はまったく変わっていない。

 ……めちゃくちゃ嫌な予感がする。

 ただの強がりは見えない。

 まだ策があるっていうのか?


「この程度で勝った気になられちゃ困るな」


 言い終えると、エンバーの全身から魔力が溢れ出てくる。

 それはリザードマンの失われた右腕へと注がれ――なんと、切り口から新しい腕が生えてきたのだ。


「「なっ!?」」


 予感は的中した。

 ラトアの決死の攻撃が無駄になってしまったのだ。


「おまえたちはラトアの力で勝てたと踏んでいたようだが、実際はそう甘くはない」

「ぐっ……」

「いいぞぉ……その顔が見たかった! 絶望したまま死ねぇ!」


 今度こそ終わりだ。

 そう覚悟した、その時だった。


「うおらああああああああああああああ!」


 どこからともなく雄叫びが轟いたかと思ったら、リザードマンの四肢がバラバラに切断される。さらに巨大な炎がその巨体を飲み込んだ。


「な、なんだ!?」

「さっきの雄叫びに魔法……ブロードとイスナーだ!」

「っ! あのふたりが助けに来てくれたのか!?」


 ここへ来て新たな援軍が到着した。

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