第34話 共闘

 エンバーが呼びだしたらしい巨大なリザードマン。

 一体何を狙ってこんなバケモノを召喚したのかは不明だが、そいつは俺たちを見つけると猛然とダッシュして間合いを詰めてくる。


「おいおい、何がどうなっているんだ!?」

「考えている暇はないぞ!」


 ラトアの言うように、もはや動揺している暇さえない。その場に突っ立ったままではヤツの猛攻の餌食になるだろう。


「長期戦を避けるためにも……この一撃で終わらせる!」


 木々をなぎ倒しながらこちらへと突っ込んでくるリザードマンに対し、ラトアは長期戦になるとこちらが不利になると睨んで強力な神剣による攻撃で一気に片づけようと目論んでいるらしい。

 

「うおおおおおおおおおおっ!」


 普段はクールで物静かなタイプのラトアの口から出たとは思えないほどの雄々しい叫び声。

 それに呼応するかの如く、神剣から放たれた大きな光の弾丸がリザードマンの体を正面から捉える。

 あの光の弾丸は言ってみれば魔力の塊。

 神剣を通してラトアの持てるすべての魔力を注ぎ込んで撃ち込まれた一撃であった。

 まともに食らったリザードマンはなんとその光弾を抱え込むようにして耐えている。


「な、なんだと!?」


 想像を絶する光景に驚愕するラトア。 

 俺もまさかあれを防がれるなんて思いもしなかった――が、


「ぶおおおおおおおおおおっ!?」


 今度はリザードマンの叫び声が学園中にこだまする。

 光の弾丸を受けとめたと思いきや、結局その凄まじい威力に耐えられなくなって吹っ飛んだのだ。


「よっしゃ!」


 さすがにあれをまともに食らっては助からないだろう。

 俺は勝利を確信してガッツポーズを決めたが、


「いや……まだだ。仕留めきれていない」

「なっ!?」


 ラトアから放たれたひと言に、俺は驚きを隠せない。

 確実に倒せたと思ったのに……ラトアの勘違いじゃないのか?

 そう願っていたのだが、


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 先ほどよりも力強い雄叫び。

 あれだけの攻撃をまともに食らっていながら、リザードマンは健在だった。


「な、なんてヤツだ……」


 正直、あれ以上の攻撃をぶつける手段は思いつかない。

俺とラトアが落胆をしていると、


「無駄な足掻きは終わったかい?」


 背後から声がして、振り返る。

 そこには余裕の笑みを浮かべるエンバーの姿があった。


「エ、エンバー……」

「もう何をやっても無駄さ。君たちは助かりっこない。あの召喚獣は僕との契約によって動き続ける。決して死ぬことはないのさ」

「不死の召喚獣か……」


 どうやら、ラトアには心当たりがあるらしい。


「契約って言ったが……一体なんて契約したんだ?」

「大体察しがついているんじゃないかな? ――ジョエル・ログナスと彼を守ろうとする者は皆殺しにしろって契約さ」

「なんだと!?」


 それはつまり――俺とジョエルに標的を限定しているというわけか。 

 ……なるほど。

 だからあのリザードマンはこの場から動かないのか。

 ターゲットである俺とジョエルを狙うために。

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