第35話 標的
あのリザードマンはジョエルと彼を守ろうとする者を標的として攻撃してくる。
エンバーめ……なんて契約を結ぶんだ。
当主となるのに手段は選ばないってわけかよ。
「さて、そろそろ騒ぎが大きくなってくる頃だね……君たちが死んでからも目的達成のためにいろいろとやらなくちゃならないことがあるんだから、いい加減あきらめてくたばってくれないかなぁ?」
「そんなあっさり死ねるかよ!」
ようやくジョエルと再会したばかりだっていうのに、このままやられてたまるか。俺は未だに気を失っているジョエルを抱えると、一目散に校舎へ向かって走りだす――が、
「ぐあっ!?」
突然、何かにぶつかってその場に倒れ込む。
「な、なんだ!? 何にぶつかったんだ!?」
目の前には何もない。
道も続いている。
にもかかわらず先へ進めないのだ。
「結界魔法か……」
ラトアが静かに呟く。
……なるほど。
俺たちを外へ逃がさないための策は万全というわけか。
「ハイン、おまえはジョエルを連れて逃げろ」
「っ! な、なら、おまえはどうするんだ、ラトア!」
「ここで時間を稼ぐ。結界魔法で救助がすぐにこちら側に入ってくることはできないかもしれないが、指をくわえて見ているだけということもしないだろう」
つまり時間稼ぎをするってわけか。
確かに、俺が戦っても秒でやられるのがオチだが……神剣を持ち、この作品の主人公であるラトアならば状況を打破できるかもしれない。
だが、そんなラトアの命懸けとも言える策をエンバーは華で笑い飛ばした。
「無駄な足掻きだね。救助を待ったところで何も起きやしないさ」
「その言い草……やはり教職員を抱き込んでいたのか」
「でなきゃこんな作戦は思いつかないさ」
作戦――その言葉が耳に届いた時、俺はヤツの話を思い出した。
「おまえ……さっき目的達成のためにいろいろとやらなくちゃいけないことがあるって言っていたけど、俺たちを消すことが目的じゃないのか?」
「それも重要ではあるけど、あくまでも前段階に過ぎないよ。僕が真の意味で英雄となるためにはもうワンプッシュ必要だと思ってね」
「英雄……?」
この世界で英雄といえば、間違いなく神剣使いのラトアだろう。
学園時代ではまだその片鱗しか見せていないが、やがて彼は世界を救う存在となる。
そんなラトアに代わってエンバーが英雄に?
「……笑わせんなよ」
「何っ?」
「おまえみたいな小物が英雄になれるかよ。英雄っていうのはラトアのような人に寄り添える優しく正しい心を持ったヤツがなるんだ!」
「ハイン……」
思わずノリで褒めちゃったけど、まあこれは本心なので問題なし。
問題あるとすれば、
「小物……だとぉ!」
俺の話を聞いて顔を真っ赤にしながらブチギレているエンバーの方だな。
ここからが大変だ――と、気を引き締めた時、
「あれ? ハイン? それにラトアまで……何をしているの?」
ジョエルが意識を取り戻した。
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