第36話 信じる力

 ついにジョエルが目を覚ます――が、事態は何ひとつとして好転しておらず、今も大ピンチのままであった。


「ジョエル! 全部を説明している暇はないから単刀直入に言うが……めちゃくちゃヤバい状況だ!」

「ハインの言う通りだ。とりあえずおまえは逃げろ。エンバーの目的はおまえの命にある」

「えっ? えっ?」


 ラトアも一緒になって説明をしてくれたが……そりゃそういう反応になっちゃうよな。仮に俺がジョエルの立場であったとしても「何を言っているんだ?」ってパニックになるのは間違いない。

 ――だが、さっきも言ったように時間がない。ラトアの攻撃を耐えたリザードマンはしばらくその影響からか動きが鈍っていたけど、ついに回復をしたらしく再び動き始めた。


「な、何、あれ!?」

「おまえの命を食らう獣だよ、ジョエル」


 エンバーの声に反応して振り返るジョエル。その綺麗な青い双眸がヤツの姿を捉えると、途端に悲しげな顔つきとなってしまう。


「エ、エンバー……」

「なんだ、その目は。僕に同情しているのか? ――だったらここで死ねよぉ!」


 感情が爆発し、エンバーは腹の底から叫ぶ。

 それに呼応するがごとく、リザードマンがジョエルへと攻撃を開始した。


「くそっ!」


 俺はジョエルを抱きかかえるとそのまま猛然とダッシュ。

 結界魔法のせいでかなり行動制限をされるが、とにかく逃げ回って時間を稼ぐしかない。

 ヤツは無駄だと鼻で笑ったが、俺はそれをハッタリだと睨んでいた。金で教職員を買収したというが、全員ではないはず。


 必ずこの事態を察して動いてくれる人がいる。

 それを信じているが……正直、いつ救出が来るのかはまったく計算できない。

 だったら――


「逃げてばかりはいられないな。俺の性分に合わない」


 俺はラトアとともに立ち向かう道を選んだ。

 

「待っていろよ、ジョエル。必ず助けるからな」

「うん。それでこそハインだよ」


 なんだか、このやりとりも懐かしいな。

 ふたりでダンジョン探索に行ったあの日を思い出すよ。

 

「次が来るぞ、ハイン」

「分かってるって」


 神剣使いラトアとともに、俺はジョエルを狙う強大な敵へと立ち向かった。

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