第33話 強大な敵

 エンバーの暴走により、歴史ある学園の時計塔はほぼ全壊。

 瓦礫と土煙で視界が遮られる中、俺は巨大な何かのシルエットを見た。


「な、なんだ、あれは……」


 時計塔の中から姿を現したのは――巨大なリザードマンだった。

 なんてデカさだ。

 ダンジョンで戦った経験があるけど、その時でさえ体長は二メートルほどだった。しかしあれはどう見ても軽く十メートルは超えている。

 けど、あれはきっと――


「あんなバカデカいリザードマンが存在していたなんて……」


 初めて見る規格外の大きさに、さすがのラトアも呆気に取られているようだが、リザードマンはリザードマンでもかなり特殊な個体だ。


「ラトア、あれはただのリザードマンじゃない。――召喚獣だ」

「召喚獣……聞いたことがある。確か、並みのモンスターよりも強く……そして呼びだした者に従順だという」


 その通りだ。

 今回のケースだと、タイミング的にも呼びだしたのはエンバーで間違いないだろう。

 問題は……なぜこんなバケモノを呼びだしたのか、だ。

 俺たちを仕留めるという目的もあるのだろうが、それにしてはサイズが大きすぎてすぐに見つかってしまう。現にもう多くの生徒や教職員たちはこのバカデカいリザードマンの存在に気づいて行動を起こしているはずだ。学園にかかわるすべての人間を買収したってわけじゃないだろうし。


「ヤツの目的が読めんな」


 ラトアも俺と同じ感想を抱いたようだ。


「俺たちだけを消そうって魂胆なら、あそこまでデカい召喚獣を用意しておく必要もないだろう。ラトアが仲間に加わっていると事前に知っていたならまだしも、俺がおまえに声をかけたのはついさっきのことだし、そもそもジョエルにさえまだ言っていなかったし」


 あれだけの召喚獣を用意するには入念な準備が必要だ。

 急遽予定を変更したとも思えない。

 エンバーの狙いは何なんだ?


「とにかく、生徒たちが避難を終えるまで時間稼ぎをしなくては」

「じ、時間稼ぎって……あれと戦うのか!?」

「今俺がやらなくては手遅れになる」


 そう言って、ラトアは神剣を構える。

 さっきその威力を目の前で見せつけられたが、使う側にまったくデメリットがないとは思えない。ラトアの顔つきもさっきに比べて険しくなっているようだし、相応のリスクを背負っているというのが透けて見えた。


「おまえひとりで戦うんじゃねぇよ」

「えっ?」


 俺も剣を抜き、ラトアの横に並び立つ。


「俺たちは仲間だろ? 仲間っていうのは協力して戦うもんだ」

「……そうだな」


 ラトアが優しく微笑む。

 原作小説の挿絵でも拝んだことがない柔らかな笑顔だった。


「そんな顔ができたのかよ」

「何っ? 今の俺はそんなに変な顔をしているのか?」

「逆だよ。――いい顔だ」

「……そうか」


 俺たちは互いの拳を軽くぶつけ合わせてから、リザードマンへ向かって駆けだす――と、その直後、リザードマンがこちらへと振り返り、凄まじい咆哮をあげた。

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