第6話 衝撃の情報

 突然の暴露に、イスナーは頭を抱えていた。

 たぶん、ここまでの彼の言動を見る限り、いろいろと段取りを決めて説明をしようとしていたんだけど……それを全部ぶち壊してしまったようだな。

 とはいえ、コンビを組んでそれなりに長いのか、呆れた顔はしても怒るようなことはなかった。


「ブロード……君という男は……」

「あん? なんか間違ったこと言ったか?」

「順序というものがあるでしょう? ただでさえ、ハインくんは我々の訪問など相次ぐ予想外の事態で戸惑っているというのに、拍車をかけるような発言は控えてください」


 イスナーは俺のことを配慮して情報を小出しにしていくつもりだったのか。

 最初はちょっと冷たい印象を受けたけど……優しいんだな。

 いくら命令があったからとはいえ、立場的には圧倒的に弱い俺の心情へ配慮するなんて普通はしないはずだし。不信感を与えないよう細心の注意を払っていたようだ。


「誤解しないでください。私たちはジョエル様を陥れようとしているわけではありません。あなたの力を貸していただきたく訪ねたのです」

「俺の力を?」

「冒険者の間では期待の新星としてギルドから注目を集めているようじゃないか――《銀狐》のハイン」


 ……俺の素行と実力については事前に調査済みというわけか。


「冒険者にもさまざまなタイプがいますからね。ジョエル様を金で売ったあなたの元お仲間のように、目先の儲けに惑わされて身を亡ぼすタイプとか……もっとも、君はそうじゃないとジョエル様は断言されていましたが」

「ジョエルが?」


 あいつが俺をそんな風に思ってくれていたのはとても嬉しい……もっとも、それが「事実であるなら」という条件つきだが。


「……さっき、ジョエルは貴族だって言ったよな?」

「そうです」

「なら、どうして貧民街で暮らしていたんだ? おかしいじゃないか」

「おまえの言う通りだよ。本当におかしな話さ」


 うんざりした様子でブロードが呟く。

 どうやら、彼も今回の件では何か思うところがあるようだ。


「その点については私の方から詳しく説明しましょう」


 静かにそう告げたイスナーは、ゆっくりと語り始める。


 あの日――ゼノスからジョエルを買い取ったのはソルヴァニア王国内で強い影響力を持つ貴族のログナス家であった。信じがたい話だが、ジョエルは現ログナス家当主の血を引く者だという。

 では、どうしてジョエルは貧民街で暮らしていたのか。

 ……まあ、正直そこまでの話を聞いて大体の事情は察せられた。


「ジョエル様の母親は当時ログナス家の屋敷で働いていたメイドなんです。おまけに、ジョエル様が生まれた際にはすでに当主様にはふたりのご子息がいらっしゃいまして……」

「そ、それって、つまり――」

「まあ、妾の子ってわけだ」


 やっぱりそうか。

 というか、そうでなくちゃおかしいよな。

 だとしたら、何の脈絡もなく呼び戻された理由にも大体見当がつく。


「もしかして、ジョエルが連れ戻されたのは……後継ぎ候補として必要になったから?」

「その通りです」

「でも、今の奥さんとの間にもふたりの子どもがいるって言ったよな? だったら、わざわざ冒険者稼業をしているジョエルを呼び戻さなくてもよかったんじゃないのか?」


 逆に本妻との間にできたふたりの息子からするとこれ以上なく迷惑な存在となるだろう。

 だが、ここにもやはり貴族らしい複雑な事情とやらが絡んでいるらしかった。




明日は正午から更新予定!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る