第5話 ジョエルの過去
今日は急遽仕事を中止。
ジョエルの命令で俺を捜していたという騎士ブロードと魔法使いイスナーを連れていつも世話になっている宿屋の部屋へと戻ってきた。
「若いのにきちんとやっているじゃねぇか」
「部屋の掃除も行き届いていますね」
室内に入った途端、なぜかテンションの上がるふたり。どちらも役職的にはエリートだから冒険者稼業をしているヤツの部屋が珍しいのか?
とりあえずいつも使っているテーブルを囲む形で着席。
ちなみに椅子が足りなかったので店主に頼んで追加した。
「さて、まずはどこから話そうか」
「ジョエルの現状を知りたい」
のんびりした口調のブロードへ、真っ直ぐに自分の要求を伝える。
「まあ、やっぱり最初はそこになるか」
「お話をする前にひとつ――あなたはソルヴァニア王国を知っていますか」
「ソルヴァニア……」
ふたりはその国の騎士団と魔法兵団に所属しているらしいが……この大陸に暮らす者ならば逆にその名を知らないって方が珍しいだろう。
「経済力や軍事力など、あらゆる面で大陸最高を誇る大国家だろう?」
「おぉ! よく勉強しているなぁ! 偉いぞ!」
「っ!?」
突然、ブロードに頭を撫でられた。
「な、何すんだよ!」
「おっとすまない。趣味で王都にある道場で子どもたちに剣術を教えているんだが、その時のクセが出ちまったよ」
慌てて手を払いのけるが、当の本人は豪快に笑いながら謝罪。
なるほど……小さな子どもにとっては良い兄貴分的な存在として慕われそうだな。
「君が言うように、ソルヴァニアはあらゆる分野において大陸最大国家となっています」
対照的に、イスナーの方は常に冷静で落ち着いている感じだ。
どちらも年齢は同じくらい――二十代半ばっぽいけど、正反対のタイプだな。
話しは主にイスナーが進めていった。こっちの方がいろいろと正確に伝えてくれそうだから俺としても助かる。
「まず説明をしておかなければならないのは、やはりジョエル様の立場についてですね」
「俺もそれが一番気がかりなんだ。奴隷同然に売られていったあいつがどうして『様』づけで呼ばれるような立場になったのか……」
「そりゃおめぇ、あの方が貴族のご子息だったからだよ」
「なるほど――えっ?」
……ちょっと待て。
今なんかとんでもない情報がサラッと伝えられたぞ?
「貴族? ジョエルが貴族だっていうのか?」
バカな。
あり得ない。
だって、あいつとはずっと一緒だったんだぞ。これでも俺は元王子だから、その手の事情についてそれなりには詳しい――だからこそいえるが、なんで貴族の息子があんな貧民街で暮らしていたんだ?
もしかして、彼らはそれを確認するために俺を捜していたんじゃないのか?
さまざまな憶測が頭の中を旋回する。
彼らの目的は……一体何なんだ?
※次は21時に投稿予定!
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