第21話 試験結果

 ラトアは俺のことを覚えていた。

 知っていて黙っていたのか、それともこうして剣を交えているうちに思い出したのか――真相は不明だが、俺にとってはもっとも避けたかった状況を迎えた形になる。

 おまけに動揺して隙を作ってしまい、ラトアはそこを突いてトドメの一撃を放とうと木剣を振る。


 万事休す。

 そう思った次の瞬間――


「…………」


 何を思ったのか、ラトアは剣を止めた。

 それどころか、戦う気を失くしたかのように剣を下げ、そのままスタスタと審判をしている職員のもとへと歩いていく。

 何が起きたのか理解できない俺やブロードを尻目に、ラトアは職員に向かって、


「俺の負けだ。彼を合格にしてくれ」


 そう告げた。

 

「な、何を言っているんだ! 君の方が勝っていたじゃないか!」

「時間の問題だ」


 納得がいかないのは職員の方だろう。

 恐らく、この学園にラトア以上の実力者となると数えるほどか、もしかしたらひとりもいないかもしれない。俺を落とすための相手としては最適の生徒であったが、ほとんど棄権のような形だからな。


 なんとか試験を続行させようとする職員だったが、


「なぜそこまでムキになるのか分からんが、納得いかないというならあんた自身が相手をしてやればいいだろう」

「えっ!? い、いや、それは……」

「……それとも、依頼主が怖くて俺に戦わせようとしているのか?」

「っ!?」


 ラトアはお見通しだった。

 あの職員のバックに別の強大な存在がいるのを。


「あんたの背後に誰がいるかまでは詮索しないが、そいつに言っておけ――『ラトア・ブレナーズが認めた』ってな」

「そ、そんな……」

 

 職員は膝から崩れ落ちるも、ラトアは無視してスタスタと去っていく。

 少し気の毒な――いや、不正で入学を拒否しようとしたわけだから、当然の報いか。これくらいの強権を発動しようとするならそれなりに報酬ももらっているだろうし。


「どうやら、私の出番は必要なかったようですね」

「っ! イ、イスナー!?」


 いつの間にかイスナーが俺とブロードの背後に立っていた。


「座学の試験が終わったと思ったら次は実戦形式……おまけに相手はあのラトア・ブレナーズですか」

「でも凄かったぜ! よく戦ったよ、ハインは!」

「いや、終始防戦一方だったから……いまひとつ実感が湧かないよ」

「しかし、これで正式に入学は認められたようですので、ひと安心ですね」


 イスナーはそう言うが、これからも何かしら妨害があるだろう。

 俺の学園生活……楽しめる余裕はなさそうだな。

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