第20話 まさかの対戦相手

 実戦形式の試験で俺が戦うことになったのは、原作主人公のラトアであった。

 完全に自業自得ではあるものの、彼が原因で俺は故郷の国を追われた……ただ、原作の内容を熟知している俺にとって、それは仕方のない流れだったと理解しており、ラトアを恨んではいない。


 しかし、そのラトアと入学をかけて戦うことになるとはまったくの予想外だった。

 あと、彼は俺を見てもまったくリアクションなし。

 ……そりゃあ、向こうからすれば俺なんて端役だし、もう二年も前の話だから忘れていても当然か。原作でも学園編はあったから、今がちょうどその頃なのだろう。だとしたら、これからもっと強大な敵と戦う運命が待っているわけだし、ますますハインなんて噛ませ役の存在は記憶から薄れていっているはずだ。


 ただ、ここで勝たなくては俺に未来はない。

 期待をしてくれているジョエルのためにもなんとかして勝ちたいところではあるが……相手は原作主人公。スペックが違いすぎる。

 

 一応、互いに使用するのは鍛錬用の木剣のため、武器の性能差による不利はない。

 ようは実力勝負というわけだ。


「はじめっ!」


 職員のかけ声で試験開始。

 ――と、同時にいきなりラトアが仕掛けてきた。

 とんでもない瞬発力であっという間に俺との距離を詰めてくる。向こうからすれば、せっかくの休みにこうして駆りだされたことにイラつき、さっさと勝負を決めてしまおうという腹積もりなのかもしれない。


 だが、俺としてもそうあっさりと負けるわけにはいかない。


「くっ!」


 咄嗟に剣を構え、ラトアの速攻を防ぐ。


「ほぉ、やるな」


 一瞬でカタがつくと踏んでいたラトアは攻撃が防がれた事実に戸惑いを見せる――が、それはほんのわずかな間だけ。すぐに切り替えて次の攻撃へ移る。

 次々と繰りだされるラトアの攻撃に、俺は防ぐので精一杯。

 このスピードとパワー……さすがは原作主人公。とても学生とは思えない。


「あ、あいつ、あれでまだ学生なのかよ!?」


 現役の騎士であるブロードから見ても、ラトアの実力は図抜けているようで驚きの声が聞こえる。

 確かに、これまで戦ってきたどんなモンスターよりも強敵だ。

 ほんのわずかでも隙を見せれば確実にそこを突いてくるだろう。


 ――けど、俺だって世界中のダンジョンを渡り歩いて腕を磨いてきたんだ。

手強い相手には違いないが、防戦一方というわけにはいかない。


「うおおおおおおおっ!」

「ふん!」


 ガン、と木剣同士がぶつかり合う鈍い音が演習場に響き渡った。

 鍔迫り合いとなり、次に相手がどう動くのか……意識を集中していると、不意にラトアが口を開いた。


「おまえ……ハイン第三王子だな?」

「っ!?」


 その名を呼ばれた俺は、思わず力を抜いてしまう。


「しまっ――」


 やられた。

 ラトアは隙だらけとなった俺に向かって木剣を振るう。




※本日は21時にも投稿予定!(計3話)

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