第19話 結果発表

 試験を終えて戻ってくると、そこにはブロードの姿があった。


「ハイン!」

「あれ? イスナーは?」

「あいつなら試験の件で抗議に行っている――って、試験はもう終わったのか!?」

「まあね。これから採点なんだ」

「さ、採点って……合格できるのかよ」

「結果を見て見なくちゃなんとも言えないかな」


 俺の過去についてはジョエルさえ知らない……はず。まあ、再会した時に何も言わなかったから、そこまで詮索していないのかもしれないが。ともかく、事情を知らないブロードは俺がいきなり学園の試験を受けたということに戸惑っていた。

 冒険者の平均学力がどんなものか分からないけど、中には字の読み書きができないってヤツもいるしなぁ。一応、ギルドの受付だったり掲示板で情報収集したりするので、大体は最低限レベルだけどクリアはしている。


 ただ、今回のように知識を問われる問題を出題されたりすると弱さが出るだろうな。

 ――で、肝心の俺の試験結果だが、採点方法は不正防止プラス素早さを考慮して魔道具が使用されるらしい。

 その魔道具とは、俺とブロードの目の前にある机の上に置かれた水晶玉だった。

 男性職員は水晶玉の前に立つと、俺の答案用紙をそこへ押しつける。どうやらあれで回答を読み込ませ、採点をするらしい。

 しばらくすると回答用紙に文字が浮かび上がった。

 それを確認した男性職員はなんて書かれてあるのかチェック――結果は、


「ぜ、全問正解……!?」


 この結果は予想外だったらしく、最後の方は声が裏返っていた。

 驚くという点では、ブロードも同じリアクションだった。


「全問正解だって!? やるじゃねぇか!」


 地面に埋めようかってくらい勢いよく肩をバシバシと叩かれる。

 何はともあれ、全問正解なら文句なく合格だろう。

 ――だが、どうも男性職員の様子がおかしい。さっきからずっと青ざめた顔で答案用紙を見つめたまま硬直。きっと、裏から圧力をかけてきたヤツには「絶対に落とせ」と言われていたんだろうが、まさか全問正解されるとはって感じかな。


「おいあんた、大丈夫か? 顔色が悪いようだが」

「あっ、い、いや、その――そうだ! まだこれで終わりじゃないんですよ!」


 往生際が悪いというかなんというか……よほど頼んできた相手が怖いと見える。この人が担当部署の最高責任者らしいので、臨機応変にできると踏んで声をかけたんだろうな。

 こうなったら相手が納得するまでやってやろうじゃないか。


「じゃあ、次は何をすればいい?」

「実戦形式の試験です。ちょうど相手も来たようですし」

「相手?」


 そんなに都合よく現れるのかと思いきや、ちょうどこのタイミングで部屋を訪ねてくる者がいた。


「彼には別件を頼んでいましてね。それが終わり次第こちらへ合流するよう話をつけておいたんですよ。これから学生用の演習場へと移動し、そこで試験を行います」


 そんな取ってつけたようなデマカセを……まあ、そいつに勝てば問題ないんだからすぐに終わらせよう。


「冒険者としてモンスターとの対戦経験が豊富なハインと実戦での勝負か……相手はエリート揃いとはいえ、学生だからな。こりゃ合格はいただきだ」


 俺よりもブロードの方が勝った気でいる。

 負けるつもりはないけど、油断をして足元をすくわれないようにだけはしないとな。

 気を引き締めていると、その生徒が部屋へ入ってくる。

 その姿を視界に捉えた途端、全身が硬直した。


「先生、書庫の整理についてですが――」

「待っていたよ、ラトアくん! 君がいてくれたらもう安心だ!」

「えっ? 急にどうしたんですか?」


 現れたのは原作主人公にして俺が追放される原因となったラトアであった。

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