第18話 適性試験
話しに聞いていなかった適性試験。
何をやらされるのかと思ったら、まずは学力試験だという。
イスナーやブロードのいない別室へと招かれ、そこで簡単なテストを三十分ほど行うらしかった。部屋はそれほど広くなく、椅子と小さな机しかない。不正防止のため、学園側の用意した筆記用具のみ使用可能だという。
「あなたが我が校に相応しい生徒になり得るのか……確かめさせていただきましょう」
「は、はあ……」
中年の男性職員はそう言って机の上に一枚の紙を置く。そこには全部で五問の問題が書かれていた。
内容は……政治や経済など、冒険者という立場のままでいたら関心を抱くことのないようなものばかり。というか、学生に解けるのか、これ。
「私はここにいますので、質問があれば挙手をして知らせてください」
「分かった」
ニヤニヤしながら用意した椅子に腰かけた。
「どうせ解けるはずがない」――って面をしているな。
本来の要項には載っていない学力試験。おまけにその内容は現役の学生にとってもかなり難しいときている。
――だが、あいにく俺にとっては得意分野だ。
何せこっちは追放された身とはいえ元王子。
幼い頃からさまざまな学問を家庭教師に教え込まれてきた。冒険者時代も故郷の国がどうなったのか気になって世界情勢は新聞を通してチェックをしていたからな。まさかこんなところで役に立つとは思わなかったけど。
スラスラと問題を解いていく中、俺は考えていた。
今回の急な学力試験……何者かによって仕組まれたものじゃないのか?
まあ、どうせ犯人はグラチェル・ログナスなんだろうけど。
ヤツがここまで手を回してきたってわけか。
裏を返せば、グラチェルにとってそれほどジョエルが目障りな存在だと言える。なんとかジョエルがログナス家の後継ぎにならないよう策を練っているが、学園で俺が常にジョエルと一緒にいると企みも成功しないと踏んで先手を打ってきたのだろう。
……随分と躍起になっているな。
ジョエルから継承権を奪うだけが目的なら、こんな回りくどいやり方をせず、ダウェン・ログナスの遺言を握り潰せばいい。
だが、ここまでの動きを見ていると、ヤツにとってそれはそう簡単にできるものではない行為らしいことが透けて見える。
或いは……何か別の理由があるのか?
――なんてことを考えているうちに、すべての回答を終える。
時間はまだ十分くらい残っているけど、まあ問題ないかな。
それを知らせるため、俺は静かに手を挙げる。
「どうしましたか?」
「終わりました」
「くくく、何をバカな――って、えっ? えぇっ!?」
最初は信じられない様子だった試験を務める男性職員。
だが、すべての回答が埋まっている用紙を見て汗をダラダラと流し始める。
もしかしたら、字の読み書きができないレベルだと思われていたのかもな。
「採点は?」
「あっ、そ、その、魔道具を使うのでこちらへ」
放心状態の職員に案内され、俺は別の部屋へと移動を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます