第27話 協力要請

 授業が終わると、生徒たちは各自好きに過ごす。

 一応、クラブ活動的なものもあるのだが、ジョエルはその中でも多忙で知られる生徒会に所属していた。

 今日は月に一度の学生会議がある日らしく、俺は終了するまで待機となる。

 ここがチャンスとばかりに、俺はある人物にジョエルの護衛を手伝ってもらうよう南校舎の屋上へとやってきた。ここには環境美化委員が管理する屋上庭園があり、原作に登場するあいつはここがお気に入りで毎日のように訪れるとあった。


 ――で、まさにその通りの行動を取っていたのである。


「よぉ、ラトア」

「うん? ハインか? ひとりとは珍しいな」

「ジョエルは生徒会の会議に出ているよ」


 俺が協力を仰いだのは、原作主人公のラトアだった。

 ある意味、ラトアのことはジョエル以上に知っている。何せ、俺は読者として彼の活躍に胸を躍らせていた立場だったからな。こっちの世界に来てからはいきなり追放される要因となってしまったが、あれは俺の自業自得。そこからここまで這い上がって来られたんだし、ラトアにはなんの恨みも抱いていない。


 むしろ、あいつのそういった真っ直ぐさがとても頼りになる。

 残念ながら、ジョエルの味方は少ない。

 現に俺自身も、危うく学園への入学を妨害されるところだった。

 だが、そういった不正を良しとしないラトアに救われ、こうして学園に足を踏み入れることができている。


 それに……あいつは俺がハイン第三王子だと気づいていた。

 数え切れないほどの問題を起こしたトラブルメーカーが学園にいるというのに、ラトアはそれでも俺を合格にするように職員へ伝える――俺はその真意を掴みきれないでいた。


 彼の性格を考慮すれば、何が何でも入学を阻止するはずだ。

 何せ、王位継承権を欲するあまり実の兄を貶めようとした最低野郎だからな。危険人物と認定されても文句はないし、実際ラトアが出てきた時点で終わったと思った。

 協力を頼む前に、そこをハッキリとさせておきたい。


「一度本人の口から聞いておきたかったんだ……どうして俺を合格にするよう言ったんだ?」

「おまえがそれに値する男だと判断したからだ」


 試験の際にも同じことを職員に告げていたな。


「……覚えているんだろう? 俺が過去に何をやってきたのか――それを踏まえた上での判断なのか?」

「当然だ。おまえはもうあの頃とは違う。剣を交えればそれくらいすぐに分かるからな」


 まるで主人公みたいなセリフを――って、ラトアは主人公だったわ。

 それはさておき、今の発言だと……俺が前世の記憶を取り戻したって気づいているようにも取れるが。


「違うというのは、具体的にどんなところが?」

「性格……いや、この場合は人格なのか? 適切な表現がすぐに思い浮かばないが、たとえるなら別人になったんじゃないかって思えるくらいには違っている」

「そ、そうか?」


 ニュアンス的に、「別人のように性格が変わってしまった」と捉えてはいるが、実際にほぼ別人となっているという部分は曖昧なようだ。

 その辺の読みはさすが主人公問う言うべきか……そういえば、原作のラトアも人を見る目があるってよく評価されていたな。自分を騙そうとする相手は瞬時に見抜けるらしい。

 原作での情報を思い出しつつ、俺は嘘偽りのない本心のみでラトアに護衛の件を提案してみる。


「ラトア……あんたに頼みたいことがあるんだ」

「ジョエル・ログナス絡みの案件か?」

「っ!?」


 こちらの考えを先読みされた。

 まるで本当に心が読めるようだけど……そういったスキルとか魔法が使えるって設定じゃなかったんだよな。もしかしたら作者が隠しているだけで、後々発覚するものなのかもしれないけど、現段階ではなんとも言えないのでとにかく嘘だけはつかないようにしよう。


「その通りだ。ジョエルの置かれている立場についてどこまで把握しているかは分からないけど……とにかく、今あいつは大変な状況になる」

「らしいな。ここのところ、あいつの周りで不穏な動きが見られる。もっとも、おまえが来てからはすっかり鳴りを潜めたが」

「っ!? ほ、本当か!?」


 その不穏な動きって……もしかして、グラチェルの息子でジョエルにとっては義理の弟にあたるエンバーが関係しているんじゃないか?

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