第3話 五年後
パーティーを追いだされた俺は住み慣れた町をあとにして各地を転々と移住して回った。
拠点を絞らなかった理由は……ジョエルを捜すためだ。
ゼノスたちに情報を求めても教えてはくれないだろうし、そもそも相手の情報については何も知らない可能性が高かった。
だから、あいつの行方を知るために各地を回り、情報を集めようとした。
些細なことでいい。
少なくても手がかりがあれば、それを追ってまた新しい事実が手に入る。
そんな気持ちで、俺は冒険者としての腕を磨きつつ、放浪の旅を続けた。
途中、かつて所属していたパーティーが仲間割れをして解散し、リーダーだったゼノスは盗賊まがいの行為をして監獄送りになったと耳にする……やっぱり悪いことはできないなぁ、といい反面教師になってくれたよ。
各地を巡る旅はそう簡単に終わるわけもなく――気がつけば五年という月日が流れていた。
◇◇◇
十七歳になった俺は大陸の南端にある海が臨める小さな町にいた。
主人公パーティーにより魔王は倒され、世界は魔族の脅威から解き放たれた。
誰もが彼らを英雄と称え、その功績を賞賛した。
俺からすれば城を追いだされる原因となった彼らだが……まあ、あれは前世の記憶を取り戻す前の俺がクズすぎるから仕方ない。今さら主人公たちを逆恨みするようなマネをしようとは微塵も思っていないのだ。
おかげで、これまでになかった生き方ができるようになった。
原作のようにこのままフェードアウトしていくかと思ったが……俺はまったく違った道を進んでいたのだった。
馴染みの宿屋をでると、海鳥の鳴き声を聞き、潮風を肌で感じながら海岸沿いを進み、その先にあるダンジョンを目指す。大陸でも珍しい、海から近い場所にあるそこが、今の俺の職場だ。
「おう、来たか」
「今日はもう何人か入っていったみたいだぞ。あんたはどうする?」
「もちろん挑むさ。もうちょっとしたら新天地へ向けて旅立つつもりだから、その資金が必要になるし」
「なんだよ、もう拠点を変えるのか?」
「けど、それは正しい判断だと思うぞ? 《銀狐》といえば大半の冒険者が耳にしたことがあるほどの知名度を誇るおまえさんの実力なら、ここより攻略難易度の高いダンジョンでも十分やっていけるだろうし」
「そっちの方が報酬もデカいもんな」
冒険者たちは口々にそう語る。
《銀狐》――それは俺につけられた異名だ。
銀髪で目つきが悪いからそういう印象を持たれるんだと思うけど、有名になっているのなら悪い気はしない。
だって、その方がジョエルに気づいてもらえる可能性が高くなるからな。
あと、ダンジョンを変えるのは報酬のためじゃない。
一部の付き合いが長い冒険者はそれを理解しているようだった。
「おいおい、おまえらもう忘れたのか? ハインは友だちを捜しながら冒険者をしているんだって言っていただろう。ここにいないと分かったら移動するのが当たり前だ」
「そういやそうだったな」
「けど、やっぱり寂しくなるよなぁ」
ここへ来てそろそろ三ヵ月。
世間話ができるくらい顔馴染みとなった冒険者も増えてきた。近くの町も住み心地がいいし、できればずっとここで冒険者稼業をしていたい。
だが、俺はどうしてもまたジョエルに会いたかった。
住みやすい町とはいえ、あいつがいないのでは長居は無用。捜す場所は世界中にたくさんあるんだ……立ち止まっている時間ももったいないからな。
「次に行くあてはあるのか?」
「別にここって決めているわけじゃないかな。でも、これから寒くなってくるから、南を目指すのもよさそうか」
「ふっ、君らしい決め方だな」
同業の冒険者たちといつものようになんでもない話をしている途中、こちらへ向かってくるふたり組の男の姿が視界に入った。
「うん? 見慣れない顔だな?」
「去る者がいれば来る者もいる。ダンジョンっていうのはそういう場所だよ」
俺の言葉に対し、スキンヘッドの冒険者がそんなことを言う。
確かに、俺がここへ来てからも人の入れ替わりはあった――が、どうもこちらに近づいてきているふたり組は同業者って感じがしない。
「あの身なり……どうやら、あいつらは冒険者じゃなさそうだな」
大柄の冒険者が視線を鋭くする。さっきまでの穏やかな顔つきとはまるで別人のような変わりようだ。それだけ、こちらへ迫ってきている男たちの気配が異様ということだろう――俺もまったく同意見だ。
やがて、男たちは姿がハッキリと確認できる距離まで接近。
ひとりは短く切り揃えられた髪に、冒険者たちよりも屈強な肉体を誇る偉丈夫。剣を携えているところを見ると、剣士だろうか。
もうひとりは赤い髪に丸い眼鏡をかけ、知的な雰囲気を醸しだしている優男。手には大きな杖を手にしているので恐らく魔法使いだろう。
どちらも年齢は二十代前半くらい。
そして――ふたりとも似たような服をまとっている。
あれはどこかの組織の制服っぽいな。
たぶん……青い髪の男が騎士団所属で、赤い髪の男は魔法兵団の所属だろう。
対照的なタイプの男たちは何やら話をしながらこちらとの距離を詰めてくる……って、なんか俺を見ていないか?
何やら緊張感が漂う中、ふたりの男たちは俺の目の前までやってくる。
「お、俺に何か……?」
やはり俺に用があるみたいだけど、一体なんだ?
騎士団にも魔法兵団にもお世話になるようなマネをしてきたつもりはないのに……
※次は15時に投稿予定!
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