第15話 ログナス家の闇

 ログナス家当主はなぜジョエルを後継ぎにしようとしたのか。

 正式に結婚している妻との間には息子がいる。

 本来であれば、そちらに継がせるというのが普通なのだが……そこにも複雑な事情が絡んでいるようだ。


「あっ、ジョエル様。その前に確認を」


 ジョエルが話す前に、イスナーが手を挙げる。


「あなたのことですから察しているかもしれませんが、ここから先の話は他言無用でお願いしますよ、ハインさん」

「そんな重要な話を俺にしていいのか?」

「ジョエル様があなたを信頼しているので問題ありません」


 当たり前のように答えているけど……凄い忠誠心だな。俺がいない間にブロードも含めて一体どんな出来事があったのか興味がある。

 まあ、それは後々聞いてみるとして――今はジョエルの話に集中するとしよう。


「では改めて説明するよ」

「あ、ああ」

「グラチェル様は……他国の要人とつながっている可能性が極めて高い」

「っ!?」


 他国の要人とのつながり。

 それ自体は別に悪いことじゃないし、実際仲良くしている者も少なくない。

 だが、このタイミングで言われると……あくどさしか感じないんだよなぁ。

 そして、その感覚は間違いではなかった。


「あっ、この場合のつながっているはよろしくない方向でって意味ね」

「そうなのか……しかし、それなら証拠を掴んで騎士団に突きだすなりすればいいんじゃないのか?」

「向こうは情報が漏れないよう細心の注意を払って動いています。我々がその情報を掴んだのも偶然が重なって起きた奇跡のようなものでした」

「それに、グラチェル様には多くの手下がいる。そいつらに命じて情報漏洩を防ぐためにあらゆる手を尽くしているため、決定的な証拠は何も出てこないんだ」


 なるほどね。

 つまり、現在実質的なログナス家の支配権はグラチェル・ログナスにあるってわけか。

 となると、ジョエルは立場的にかなり弱いな。一応、現当主はジョエルを後継ぎとして考えているようだが、仮に遺書を残していたとしてもグラチェルに握り潰される可能性が極めて高い。話を聞く限り、悪知恵は働きそうなヤツみたいなので、それができるよう根回しもしているだろうからな。


「ハイン……僕がここへ来てから、父上はとてもよくしてくださった。同時に僕を手放すことになったのをずっと後悔していて……そんな父上の名を汚すような行いをしようとしているグラチェル様をなんとか止めたいんだ」

「ジョエル……」


 声を震わせながら語るジョエル。

 ……弱いんだよなぁ、昔から――ジョエルが悲しむ姿を見るのが。

 

「どこまでやれるか分からないが、おまえの力になるよ、ジョエル」

「本当にありがとう、ハイン」


 俺たちは互いに見つめ合いながら握手を交わす。

 さて、これから忙しくなるぞ。

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