第16話 夜の茶会

 ジョエルを狙うグラチェル・ログナスの陰謀を打ち砕く。

 そのために数少ない協力者たちを募り、情報収集を始めていくらしい。


 現当主であるダウェン・ログナスはかなり弱っており、あと一ヵ月ともたないだろうと宣告されていた。そのわずかな期間でグラチェル・ログナスの闇を暴き、ジョエルが正当な後継者であると証明しなくてはならない。

 ――ただ、これはかなり難しいクエストだ。

 何せ、相手のグラチェル・ログナスはかなりの切れ者であり、おまけに強大な権力を有している。ジョエルも同じログナス家の人間だが、資金やら人脈やらはすべてグラチェルに掌握されていた。


 時間もないし練られる策も厳しい制限つき。

 状況としてはこれ以上ないほど絶望的だった。


 それでも、父の名誉とログナスの名を守るため、わざわざかつての相棒である俺を捜しだして協力を求めてきた。再会を果たせたらジョエルのために生きると決めていた俺にとって、頼られるという今の状況は喜ばしいのだが……あまりにも厳しい現実を前に、頭を抱えていたのだった。



 ログナス家の護衛騎士に加わったその日は屋敷で夜を明かすことになった。 

 真面目な話が終わると、ジョエルは俺に再開するまでどこで何をやっていたのかをずっと尋ねてきたので、俺はイスナーの淹れてくれたお茶を飲みながらここまでの冒険譚を聞かせた。


 ともにいろんなダンジョンを渡り歩いた頃を思い出したのだろうか、ジョエルはモンスターとの戦闘や報酬をゲットした話に夢中となっていた。


「本当にいろんな場所へ行っていたんだね」

「おまえを捜すためにな。苦労も多かったけど、こうして再会できてよかったよ。まさか貴族になっているとは夢にも思わなかったが」

 

 何気ない世間話。

 けど、俺はこんな時間がまた訪れることをずっと願っていたのだ。

 それが叶って満足といえばそうなんだが……やはり、問題はジョエルのこれからだろう。

 イスナーやブロードは現当主のダウェン・ログナスに恩義があるらしく、最初は彼の依頼でジョエルの護衛騎士となった。しかし、ジョエルのひたむきさや貧民街で苦しむ人々を救いたいという思いに共感し、いつしか本気で仕えるようになったという。


 ――そう。

 彼らが共感した「貧民街の人々を救いたい」というジョエルの気持ちがグラチェルの反感を買っているらしい。

 ジョエルとしては新しい政策に盛り込みたいようだが、グラチェル以外にも反対の声があがりそうだな。私腹を肥やすことだけに熱心な貴族も多いようだし。


 そういった政策はジョエルの体験に基づいて提案されたものらしいが、これを実現するのは困難だろう。

 ただ、ジョエルもイスナーもブロードもあきらめてはいなかった。

 貴族を敵に回したくないからという理由で協力者は極めて少ない状況ではあるが、なんとか突破口を見つけだし、成功させたいな。


 とりあえず、俺は明日からの学園生活についていろいろと考えなくちゃいけないな。

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