最終話 最高の相棒と最高の人生を

 学園を巻き込んだ大騒動は「ジョエル・ログナスとその仲間たちが全員無事に生存」という円満な結果を残して幕を下ろした。

 首謀者であるエンバーは当然騎士団の方々に連行され、この暴挙を黙認していた学園関係者すべてが漏れなく摘発されていき、学園創立以来最大の不祥事が次々と明るみとなっていったのだった。


 もちろん、今回の事件はエンバーの単独犯というわけではない。

 学園関係者たちを巻き込んだ背景には母親であるグラチェル・ログナスの影響が非常に大きかった。当初、連行された学園関係者たちは揃って口を閉ざしていたが、騎士団側が黒幕を特定するために取引を持ちかけたことで事態が一変。

 これまで表沙汰にならなかったグラチェルの悪事が次から次へと溢れ出てきた。


 事態を重く見た騎士団は国王陛下に報告。

 国家の未来を担う若者たちの学び舎で行われていた不正の数々を目の当たりにした国王は大激怒。グラチェルやエンバーは国外追放処分となったのである。


 一方、同じくログナスの名を持つジョエルについては学園にとどまることが許可された。

 最初はログナス家の爵位を剥奪する動きも見られたが、ジョエルが国王陛下に謁見し、自身の「この国から自分のように苦しい思いをする子どもをなくしたい」という考えを包み隠さずに伝えた。さらに周囲の評判の良さと陛下も注目するラトアの口添えもあってジョエルをログナス家の正当な後継者として迎え入れることを許可したのである。


 これは異例中の異例だと、イスナーは驚いていた。

 確かに、彼は「爵位剥奪は免れない」と事前に教えてくれていたし、仮にそうなったとしてもジョエルについていき、彼の理想を叶える手伝いをしようと誓った。


 それがまさかログナス家の名が残り、ジョエルが正当な後継者として認められるなんて……おまけにグラチェルやエンバーといった反対派は国外へ追放されたし、俺たちにとってはこれ以上ない結果となったのだった。


 それから時は流れて――一ヶ月後。


 ログナス家の屋敷で過ごしていた俺たちのもとに、学園再開の案内が届いた。

 グラチェルとエンバーが暮らしていた方の屋敷は誰もいなくなり、使用人たちが路頭に迷ってしまうのではないかと心配されたが、なんとか全員次の就職先が見つかってひと安心。

 まあ、こっちにも何人か移ってきたみたいだし、その辺はジョエルがよそにかけ合ったり尽力したおかげだな。再雇用された人たちはみんな感謝していたよ。


 一方、学園側にも大きな動きがあった。

 不正に加担した者たちは一斉に処分となり、おまけにエンバーの召喚したリザードマンが暴れた後の処理もあったりで学園は臨時休校となっていたのである。それがようやく再開する目途が立ったというので新しいスケジュールが送られてきたのだ。


「うわっ、定期試験までの日程が凄く短くなってる……これはなかなか苦労しそうだなぁ」

「休校期間が長かったからなぁ」

「致し方ない処置だろう」

 

 穏やかな午後をジョエルと過ごす――つもりだったが、なぜかここに新たな勢力が。

 そう。

 エンバーの一件で俺がスカウトしたラトアは、休校で寮から追いだされる形になって以降すっとこのログナス家の屋敷で暮らしていた。これについては事件解決後に意識を取り戻したラトアへジョエルが提案したため実現したのだ。

  

 頼もしい仲間が増えて嬉しいのだが……まあ、いいか。

 この際、余計なことは言いっこなし。

 仮にリザードマンとの戦闘に彼がいなかったら、俺もジョエルもこの世にはもういなかったかもしれないんだし、そういう意味では命の恩人になるからな。


 三人で学園談義に花を咲かせていると、そこへさらにふたり加わる。


「いよいよ学園が再開されますか」

「また寂しくなるなぁ」


 イスナーとブロードだった。


 ふたりはログナス家の脅威が去り、おまけにリザードマン戦での活躍が注目されて騎士団と魔法兵団にそれぞれカムバックしないかと誘いがあった。以前ほどジョエルの身に危険が迫る事態はなくなったのでどうかという話だったが……やはり、ふたりは丁重に断って屋敷にとどまっている。


 ジョエルの掲げる理想を叶えるため、彼らは自らの命を捧げる覚悟を決めたのだ。騎士団長も魔法兵団長も残念がっていたが、崇高な目的があると高く評価し、困った時は遠慮なく頼ってくれとまで言ってくれた。


 周囲のジョエルを見る目は、あの事件をきっかけに変わりつつあった。


 もともと嫌われていたというわけではないが、あまり仲良くしすぎるとエンバーに睨まれると噂されており、一部生徒たちからは避けられている状況でもあった。それがなくなれば、ジョエルの人間性を知るクラスメイトたちは自然と集まってくる。

 

 後ろめたさを感じている者も少なくなく、ジョエルに謝罪の言葉を送ったりしていたが、当のジョエル自身はまったく気にしておらず丁寧に返していた。


 言ってみれば、ここからがジョエルにとっても真の学園生活と言えるだろう。


「これからが楽しみだね、ハイン」

「そうだな」


 俺たちは笑い合って、学園再開に向けた準備を始めるのだった。


  ◇◇◇

 

 迎えた学園再開当日。

 教室に入ると、久しぶりに顔を合わせるクラスメイトたちと挨拶を交わし、休校中に何をしていたかという話題で盛り上がった。

 俺と新しくジョエルの護衛役となったラトアは少し離れた位置でその光景を眺めている。


「クラスメイトたちの表情が明るいな」

「まあ、これからは今までよりしがらみも少なくなるから、その影響もあるんじゃないか」


 ラトアが言うように、生徒たちの表情は前よりも晴れ晴れとしている。

 これについてはイスナーから情報提供があった。


 学園の組織を再編するにあたり、騎士団や魔法兵団が学園関係者を対象に再度詳しい調査を行ったのが……これがまあなんと不正行為が出るわ出るわ。悪事の温床となっていたことが発覚したのである。

 多くが学園の卒業生で構成されている騎士団と魔法兵団の幹部はこれに大激怒。

 国王陛下に直談判し、学園の幹部にそれぞれの組織の関係者――つまり、第三者を入れることが正式決定された。

 中にはこれまで貴族の子息や令嬢を不当に優遇する行為を平気で行い、親から見返りをもらっていた者も続々と発覚。人によっては学園に居づらくなって自主退学をする生徒まで出る始末だった。

 組織改革というにはなかなかの荒療治となったが、この国の未来を担う若者たちを健全に育成するためには、それくらいの抜本的な見直しは確かに必要だったろうな。実際、クラスの子たちの表情を見る限り、成果は表れているようだし。


「残り一年の学園生活……存分に楽しめそうだな」


 そう語るラトアの表情も明るい。

 ――って、あと一年!?


「そっか……あと一年しかここにいられないのか……あっという間だよなぁ」

「まあ、おまえは編入組だからな。かといって留年するわけにもいかないだろう?」

「もちろんそうなんだろうけどさ……」


 未練がましく呟いていると、


「ハイン! ラトア! ふたりもこっちに来なよ!」


 無邪気な笑顔で俺たちを呼ぶジョエル。

 ……なんか、あの笑顔を見ているとそんなのどうでもよくなるな。

 学園を卒業しても、俺がジョエルのそばにいるのは変わらない。

 これからもずっと彼の護衛として離れるつもりはないからな。


「さて、主人に呼ばれているが……どうする?」

「行くに決まっているだろう? おまえは?」

「同行する」


 俺とラトアは笑顔で待っているジョエルのもとへと歩きだす。

 これからもこんな平和で穏やかな日々を過ごせるよう、俺は相棒を守るためにこれからも戦い続ける――そう心に誓うのだった。

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悪役王子に転生して追放された俺は運命の相棒と出会う! 鈴木竜一 @ddd777

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