第25話 夜のひと時
俺の学園生活初日は思わぬトラブル(?)もあったけど無事に終了。
ジョエルも元気に過ごせたみたいだし、問題なさそうで何よりだ。
その日の夜。
夕食は学生食堂があるということで、ジョエルと一緒にそこへ移動。
「てっきり寮の部屋で食べるのだとばかり思っていたけどな。部屋もめちゃくちゃ広いし」
「昼間は授業や演習があってゆっくり友だちと話すことができないからね。ここは交流の場としても活用されているんだ」
なるほど……考えてみれば、この場にいるのは名のある貴族や大商人、その他さまざまな分野で活躍している人物のご子息やご令嬢ばかり。学友としての付き合いはもちろん、将来を見据えた、いわゆるビジネスパートナーを選ぶうえでも欠かせないってわけか。
なんだか社会の黒い部分が透けて見える気がしないでもないが……ジョエルをテーブルに誘った三人のクラスメイトに関しては、純粋に仲の良い友だちという感じだ。
「ハインくん、クラスにはもう慣れた?」
この場で唯一の女生徒であるラナ。
彼女は王都にある宿屋の店主の娘らしく、高い魔法の才能を買われて学園に入学したらしい。
「おいおい、まだ一日目だぞ?」
緑色の癖毛が特徴的な男子生徒の名前はマービン。
彼は王都でも腕利きで知られ、騎士団御用達という鍛冶職人の息子。将来的には父の仕事を継ごうと考えているとのこと。
「でも、午後の演習での剣さばきは実に見事だったよ。ラトアが褒めるわけだ」
最後のひとりは赤い髪のカール。
彼は辺境領地を治める当主の嫡男だが、貴族での序列は下の方らしく、平民であるラナやマービンとよくつるんでいる。
……まだ入学して一日と経っていないが、生徒たちの情報はバッチリ頭に叩き込んであるのでどんな会話でも対応可能。すべてはイスナーが用意してくれていた生徒たちの情報のおかげだな。めちゃくちゃ分厚かったけど。
それにしても、こんな穏やかな気持ちで飯を食べるのなんて初めての経験かもな。
冒険者時代は独立して以降、自分の食い扶持を確保するのに必死だった。ある程度の経験を積めば、自分でこなせるクエストの難易度も分かってくるし、金が入ってくるケースも増えたからそれほどひもじい思いをしなかったけど……長く続くかどうか分からないという将来的な不安はあったな。
けど、今はそんなことを考えずに食事や会話に集中できる。
ありがたい限りだよ。
この環境に感謝をしつつも、俺は周囲への警戒を怠らない。
すると、ひとりの男子生徒が目についた。
こちらをジッと見つめるあの瞳……どこか、恨みにも似た感情が灯っているように映った。
「あいつは……もしかして……」
「どうかしたの、ハイン」
「い、いや、なんでもない」
ジョエルから声をかけられて一瞬目を離した隙に、男子生徒は移動したのかその場にはもういなかった。
ヤツの正体を探る必要がありそうだな。
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